(経営学者)佐藤 耕紀 のブログ

経営学の紹介 & Coffee Break(写真、紀行、音楽など)

経営学

中央集権と自律分散?: 機能別組織と事業部制組織

今回も、著書のボツネタから。 前回の続きとして読んでいただければと思います。 機能別組織と事業部制組織は、伝統的な経営学の教科書には必ず出てくるようなトピックスです。 ただ、少々込み入った話になってしまい、現代の組織の説明としては古くなってき…

ゆるい協力関係の時代に?: ネットワーク

今回も、著書のボツネタから。 前回の「組織(ヒエラルキー)か、市場か」という話の続きです。 これも重要なトピックスではありますが、やや専門的で難しくなってしまったように思えて、最終的には削りました。 ***** このように、「組織」(ヒエラル…

つくるか、買うか(make or buy): アウトソーシング、取引費用、垂直統合

今回も、著書のボツネタからです。 ヒエラルキーと市場の中間に「ネットワーク」があるという話の前置きに書いたのですが、紙幅の関係で削ることになりました。 ***** 官僚的な「ヒエラルキー」と比較対照される言葉に、自由な取引が行われる「市場」が…

「用意周到」と「反射神経」、どちらがいい?: フィード・フォワードとフィード・バック

今回も、著書のボツネタからです。 重要なトピックスではありますが、話がちょっと難しくなったような気がして、最終的には削りました。 ***** 事前の情報や知識によって、これから起こることを予想し、準備して対応することを「フィード・フォワード」…

なぜ、日本人はドイツ人の部下に仕事を断られる?: ジョブ型雇用

今回も、著書のボツネタから。 11-6で欧米(ドイツ)の働き方について書いたのですが、紙幅の関係で引用をかなりカットせざるを得ませんでした。 ここでは、当初のバージョンを紹介します。 ***** 20年間にわたってドイツで働いたビジネスマンの隅田貫…

日本の管理職は、中国やタイと比べても収入が低い?

今回も、著書のボツネタから。 日本の働き方について書いた部分ですが、ちょっと話が細かくなりすぎたような気がして、最終的には削りました。 ***** パーソル総合研究所は2019年に、日本を含むアジア太平洋地域(APAC)14カ国の就業意識を調査しました…

メリハリが大切?: 戦略と費用対効果

今回も、著書のボツネタから。 競争戦略の話のまとめとして書いたのですが、紙幅の関係で削ることになりました。 ***** 戦略について、いろいろな話をしてきました。結局は、どこに費用をかけて、どんな効果(価値)を生むかということです。ここでも、…

価格はAIが決めている?: ダイナミック・プライシング、需要と供給

今回も、著書のボツネタから。 紙幅の関係で、泣く泣く削ったところが多々あります。 ***** 「ダイナミック・プライシング」(dynamic pricing、変動価格制)という言葉をよく聞くようになりました。 予約サイトで飛行機やホテルの料金をチェックすると…

主要国でウーバーが使えないのは日本くらい?: 規制緩和

今回も、著書のボツネタです。 「ネットワーク型組織」の話の伏線として、ハイエクの考えを紹介したかったのですが、紙幅やバランスの関係もあって、最終的には削りました。 ***** オリックスの元会長で、政府の規制改革会議議長などを歴任した宮内義彦…

国が民間の邪魔をする?: 政府の失敗

今回も、著書のボツネタから。 「政府の失敗」も経済学ではポピュラーなトピックスですが、紙幅の関係もあって、最終的には削りました。 ***** 法律や規則によって、民間企業の創意工夫を活かしたチャレンジが阻害されているという話も聞きます。 「宅…

シリコン・バレー型のマネジメント: 「デジタル組織」

今回も、著書のボツネタです。 官僚制とシリコン・バレー式のコントラストが鮮明で面白いとは思うのですが、前半がやや理屈っぽいような気もして、最終的には削りました。 ***** 経済学者のブリニョルフソン(Erik Brynjolfsson)らは、IT(情報技術)…

「黙って言われたとおりにしろ」か、「自分で考えろ」か: 他律と自律

今回も、著書のボツネタから。 これも重要なトピックスだとは思いますが、やはりちょっと難しくなってしまったように思えて、最終的には削りました。 ***** コントロールには「他律」(heteronomous、他から律せられる)、「自律」(autonomous、自ら律…

カリスマ経営者は長期計画を嫌う?: 公式と非公式

今回も、著書のボツネタから。 重要なトピックスではあるのですが、話がちょっと難しくなってしまったように思えて、最終的には削りました。 ***** 経営学では、さまざまな要素からなる組織の全体的な特徴を「組織構造」(organizational structure)、…

叱って成績が上がるのは錯覚だった?: 平均への回帰

今回もボツネタから。 著書の7-6で、「平均への回帰」という話を書きました。 ここでは、当初書いて、最終的にはボツになったバージョンを紹介します。 ***** ノーベル賞を授与された行動経済学者のカーネマンは、かつてイスラエル空軍に招かれ、訓練教…

部分を見ても全体はわからない?: 要素還元主義、全体論、創発

今回も著書のボツネタから。 面白いテーマだとは思うのですが、やや抽象的でわかりにくいような気がして、最終的には外しました。 ***** 組織のマネジメントでは「全体は部分の総和ではない」という考え方が重要でしょう。 いろいろな商品の間に補完性…

日常に潜む「コンコルド効果」

著書の草稿で書いたものの、紙幅の関係で泣く泣くボツにしたトピックスがいろいろとあります。 書いた内容の半分以上はボツになりました。 それだけ厳選を重ねて、ぎっしりと中身の詰まった本になったはずです。 今回はボツネタの中から、2-10で書いた「コン…

がんばっても報われないと燃え尽きる?: 学習された無力感

今回は著書のコラムから、Column 7の内容を紹介します。 「学習された無力感」(learned helplessness)と呼ばれる心理現象があります。経営学者の金井壽宏先生らは、次のようにまとめています。私も含め、ビジネス・パーソンにとっては、身につまされる話で…

日本の生活水準はどの程度?: 日本の生産性

今回は著書の第11章から、11-5の内容を紹介します。 みなさんは、日本の生活水準は高いと思いますか? もちろん、世界全体の中では高い方でしょう。しかし、先進国の中ではどうでしょうか。そもそも、生活水準はどのように決まるのでしょうか。 さまざまな国…

なぜ、ヨーロッパの駅には改札がない?: 世界を見て、日本を考えよう

今回は著書の第10章から、10-11の内容を紹介します。 幅広い視野をひらくために、若いみなさんにおすすめしたいのは、海外を旅することです(残念ながら執筆時点では「新型コロナ」の影響で、海外旅行は難しくなっています)。 「日本の常識は世界の非常識」…

秋元康さんが最も重要と考えるヒットの条件: 人材の差別化と希少価値

今回は著書の第9章から、9-6の内容を紹介します。 人材の価値を高める戦略も、基本的には商品の競争戦略と同じでしょう。いくらでも代わりのあるコモディティ(3-5)では、人材もあまり高く評価されません。独自の価値や魅力をもつように差別化することが…

よいリーダー2人より、悪いリーダー1人がまし?: 命令の統一、管理の幅、集権と分権

今回は著書の第8章から、8-5の内容を紹介します。 官僚制(ヒエラルキー)の基本原則に「命令の統一」(unity of command)というものがあります。「命令の一元性」と翻訳されることもあります。これは「すべてのメンバーは、直属の上司にだけ報告し、直属の…

選挙では背の高い方が勝つ?: 権威とハロー効果

今回は著書の第7章から、7-11の内容を紹介します。 バーナードはリーダーの「権威」(authority)について、面白い説明をしています。 「リーダーが部下に命令して、部下がそれをきちんと実行したら、リーダーには権威がある。もし部下が言うことを聞かない…

自分は嫌だけど、他人にはやってほしい: 社会的ジレンマ、共有地の悲劇、自己成就する予言

今回は著書の第6章から、6-3の内容を紹介します。 「囚人のジレンマ」という言葉は参加者が2人のときにつかわれ、3人以上になると「社会的ジレンマ」(social dilemma)と呼ばれます。 ネズミの社会で、「ネコの首に鈴をつける」相談をしているとしましょう…

星野社長のキャリアを変えた経営理論: ポーターの競争戦略

今回は著書の第5章から、5-1の内容を紹介します。 ビジネスの現場で最も有名で、よくつかわれている経営理論は、ポーター(Michael E. Porter)の競争戦略ではないでしょうか[1]。 星野リゾートの星野佳路社長は、あるテレビ番組で「私の1冊」を尋ねられて…

なぜ、セブン‐イレブンは急に増える?: 規模の経済性、速度の経済性、密度の経済性

今回は著書の第4章から、4-6の内容を紹介します。 家賃や人件費は、売上に関係なく面積や時間で決まる「固定費」です。一定のスペースに多くの席を設けたり、一定の時間内に多くのお客に来てもらえば、一定の費用から大きな売上をあげられます。 このように…

なぜ、プリンタは安すぎる?: キャプティブ価格

今回は著書の第3章から、3-7の内容を紹介します。 スイッチング・コストやロック・インを利用した「キャプティブ価格」(captive pricing)という戦略もあります。 これは「補完的な商品群のなかで、入り口になる商品の価格を安くして顧客を誘い込み、ロック…

食べ放題で元をとる?: 埋没費用とコンコルド効果

今回は著書の第2章から、2-10の内容を紹介します。 意思決定をするうえで「埋没費用」(sunk cost)には注意が必要です。英語のまま「サンク・コスト」と表記されることもあります。 みなさんなら、次のような状況についてどう思いますか? 今つきあっている…

高いほど売れる「シーマ現象」: 見せびらかし消費とヴェブレン効果

経営学について書いていこうと思いますが、最初の10回程度は、著書の内容紹介をさせていただきたいと思います。 今回は第1章から、1-7の内容を紹介します。 経済学者のヴェブレン(Thorstein B. Veblen)は『有閑階級の理論』(1899年出版)で、「見せびらか…