今回は著書の第11章から、11-5の内容を紹介します。
みなさんは、日本の生活水準は高いと思いますか?
もちろん、世界全体の中では高い方でしょう。しかし、先進国の中ではどうでしょうか。そもそも、生活水準はどのように決まるのでしょうか。
さまざまな国の生活水準は、基本的には「労働生産性」で決まります。生産性は、1人が1時間で生産する商品やサービスの量です。時間当たりの生産性が高い国ほど、生活水準も高くなります[1]。
OECD(経済協力開発機構)に加盟する36カ国のなかで、日本の労働生産性は21位と、かなり低い方です[2]。同じ1時間の労働で、アメリカやドイツでは日本の約1.6倍の価値を生み出しています。統計に表れない「サービス残業」という日本特有の(違法な)慣行を考えると、実際には日本の生産性はさらに低いと思われます。
生産性が高ければ、短い労働時間で十分な収入を得て、余暇を豊かに楽しむことができます。他の主要先進国からみると、日本は長時間労働にもかかわらず賃金が低く、生活水準も相応に低いといえるでしょう。
日本の生産性はなぜ低いのか
生産性は費用対効果ですから、生産性が低いのは「効果のないところに費用をかけている」「無駄なところに時間やエネルギーを割いている」ということでしょう。生産性を高めるには、重要なところに資源を集中して、重要でない仕事は相応に手を抜かなければなりません。トリアージ(1-11)の例を思い出してほしいのですが、資源がかぎられているときには、すべてをきちんとやろうとすると、結果はかえって悪くなります。
また、ふつうに考えれば、1日の最適な労働時間というものがあるはずです。まったく働かなければ仕事が進みませんし、24時間働き続けたら数日で倒れてしまいます。その中間のどこかに、最適な労働時間があるはずです。最適な労働時間を大きく超えているために、効率が悪くなっているということは考えられるでしょう。
残業することがわかっていれば、ペース配分をしてゆっくり働くかもしれません。目一杯がんばろうとしても、身体や脳が疲れて効率が落ちるでしょう。短距離走と同じペースでマラソンを走ることはできません。労働時間が長くなれば、時間あたりの成果が低くなるのは当然ともいえます。
日本では「雇用の流動性」(mobility of labor)が低いことも、生産性が低い理由のひとつかもしれません。
「飼い殺し」という言葉がありますが、日本では転職をしにくいために、自分に合わない仕事を、モチベーションが下がったまま続けるのかもしれません。パーソル研究所による国際比較調査では、日本の就業者は他国と比較して「仕事の満足度も勤続意欲も低いのに、転職は考えない」という結果が出ています[3]。
雇用の流動性を高めるというと、多くの人は「クビを切られやすくなる」と拒否反応を示すようです。しかし流動性が高まれば、新しい仕事を見つけやすくなるというメリットもあります。現状では解雇が難しいために、企業は雇用を最小限に抑えようとします。
また、このあとで説明しますが、日本では分業・専門化のメリットが活かされていないということもあるでしょう。多くの先進国で仕事は分業・専門化され、従業員は自分の好きな仕事、得意な仕事に集中します。日本では分業・専門化があいまいで、誰にでも「何でも屋」のように仕事をさせます。
日本の組織ではよく、時給の高い職員が専門外の仕事に時間をとられています。彼らにしかできない仕事に専念してもらい、一般的な仕事は他の職員にまかせる方が効率的かもしれません。
[1] N・グレゴリー・マンキュー著、足立英之・石川城太・小川英治・地主敏樹・中馬宏之・柳川隆訳『マンキュー経済学【第2版】II マクロ編』(東洋経済新報社、2005年)、p.18
[2]日本生産性本部「労働生産性の国際比較」(2019年版)、https://www.jpc-net.jp/research/list/comparison.html
[3] パーソル総合研究所「パーソル総合研究所、日本の「はたらく意識」の特徴を国際比較調査で明らかに」2019年8月27日、https://rc.persol-group.co.jp/news/201908270001.html
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