(経営学者)佐藤 耕紀 のブログ

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主要国でウーバーが使えないのは日本くらい?: 規制緩和

    今回も、著書のボツネタです。

    「ネットワーク型組織」の話の伏線として、ハイエクの考えを紹介したかったのですが、紙幅やバランスの関係もあって、最終的には削りました。

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     オリックスの元会長で、政府の規制改革会議議長などを歴任した宮内義彦氏は、次のように言っています。

 

    市場の自由化によって企業の参入を促し、競争によって効率性・生産性を高めることが規制改革の本質です。良い例かどうかは別として、ライドシェア大手の米ウーバーテクノロジーズを考えてみましょう。世界の主要国でウーバーが使えない国は数えるほどしかありませんが、日本はその数少ない国の1つです。無許可のタクシー営業である「白タク」行為と同じであるとされているためです。ウーバーは道路運送法違反、ということで議論はおしまいです。これでは世の中は変わりません。日本でウーバーを使えるようにするにはどういう法律改正が必要かという発想ではなく、タクシー業界を保護する既存の法律に新しい潮流を当てはめて拒否してしまっているのです。日本のタクシー料金が国際的にも割高なままなのは、こうした旧弊が維持されていることも一因ではないでしょうか。おそらくウーバーはタクシー業界にとって打撃になるでしょう。しかしそれは鉄道の登場でほろ馬車が衰退したのと同じで、歴史の必然と言える部分があります。[i]

 

    政府による過剰な規制に反対して、規制緩和や「小さな政府」を目指す経済思想は「新自由主義」(neoliberalism)と呼ばれます。

    海外ではイギリスのサッチャー政権や、アメリカのレーガン政権、日本では「官から民へ」を掲げた小泉内閣などが、これに近い政策をとったことで知られます。

    そうした立場をとる経済学者としては、『市場・知識・自由』[ii]ハイエク(Friedrich A. Hayek)や、『資本主義と自由』[iii]フリードマンMilton Friedman)らが有名です。

    ハイエクの考え方がよく表れている部分を、少しだけ紹介しておきます。

 

    われわれが利用しなければならない諸事情の知識は、集中された、あるいは統合された形態においては決して存在せず、ただ、すべて別々の個人が所有する、不完全で互いに矛盾する、分散された断片的な知識としてだけ存在する。(p.53)

 

    社会の経済問題は主として、時と場所の特殊事情における変化に急速に適応する問題であるということに、われわれが同意できるとするならば、最終的決定は、そのような事情をよく知っている人たち、つまり、重要な変化と、それに応じるため直ちに利用できる資源を直接に知っている人たちに委ねられなければならないということになる。(p.63)

 

    これは、第8章でお話しするネットワーク型の組織につながる考え方でしょう。

 

[i] 日本経済新聞「岩盤規制、穴を開けずに突き崩そう」2019年12月27日、https://www.nikkei.com/article/DGXMZO53762760U9A221C1X93000/

[ii] F・A・ハイエク著、田中眞晴・田中秀夫編訳『市場・知識・自由 ―自由主義の経済思想―』(ミネルヴァ書房、1986年)

[iii] ミルトン・フリードマン著、村井章子訳『資本主義と自由』(日経BP、2008年)

 

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