(経営学者)佐藤 耕紀 のブログ

経営学の紹介 & Coffee Break(写真、紀行、音楽など)

国が民間の邪魔をする?: 政府の失敗

    今回も、著書のボツネタから。

    「政府の失敗」も経済学ではポピュラーなトピックスですが、紙幅の関係もあって、最終的には削りました。

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    法律や規則によって、民間企業の創意工夫を活かしたチャレンジが阻害されているという話も聞きます。

    「宅急便」で知られるヤマト運輸は、国の規制とたびたび戦いながら、便利なサービスを充実させてきたことで知られています。あるテレビ番組では、次のように紹介されていました。

 

    宅急便の全国のネットワーク完成にかかった歳月は、なんと15年。ずいぶん長くかかっていますが、その原因となっていたのが運輸省(現在の国土交通省)でした。そもそも、運送業者が全国各地、町から町へと荷物を運ぶためには、運輸省が交付する路線免許が必要でした。「全国どこでも…」のサービスを目指すクロネコも、もちろん申請しました。ところが、これがほったらかしに。なぜそんな事になったのでしょうか。

    このことについて、東洋大学教授の松原聡さんは次のように説明しています。

    「地元の運送事業社がヤマトに対して免許を出すことにすごく抵抗したわけですよ。旧運輸省は地元の言う事を聞いちゃったんですね。だからヤマトが免許をくれと言ってもなかなか免許を出さない。ある種の意地悪をして、地元の言う事を聞いたために出さなかったんですね」。

    あまりにも理不尽なこの状況に、クロネコが怒った。1986年、自らの監督官庁である運輸省の大臣を相手に「不作為の違法確認の訴え」をするために裁判を起こすという、前代未聞の戦いを始めたのです。免許の申請を5年も放置した理由など、お役所が説明できるわけもなく、4ヶ月後にはあっさり免許を交付。[1]

 

    政府の規制によって「市場の失敗」(2-4)を是正できる可能性はあります。その一方で、政府の介入によってさまざまな問題や非効率が生じることもあります。これを「政府の失敗」(government failure)といいます。

    経済学者の八田達夫先生は、次のように書いています。

 

    「政府の失敗」の典型例は、さまざまな分野で設けられている参入規制です。ある業種への新規参入者を制限すると、既存の業者は価格を高く維持できます。したがって、ありとあらゆる業界は、自分の産業への新規参入者を制限しようとします。薬局業界がコンビニエンスストアでかぜ薬や胃腸薬を売らせない法律を国会に作らせたのはその1つです。理容師や美容師になるには、原則として、高校卒業以上でなければなりません。いったん美容師の資格を得た人が理容師の資格を取るためには、また2年間理容師学校に行って、ほとんど同じことをもう一度学ばなければなりません。理容師組合や美容師組合が国会議員にそのような規制を作らせたのです。さらに、日本では、弁護士の数を極端に少なくし、弁護士の資格を得た人々の競争を制限しています。例は枚挙にいとまがありません。こうした参入規制を除去することも、重要な経済政策のひとつです。[2]

 

[1] TBS「がっちりマンデー!!」2006年8月13日放送、https://www.tbs.co.jp/gacchiri/archives/2006/0813.html

[2] 八田達夫ミクロ経済学I 市場の失敗と政府の失敗への対策』(東洋経済新報社、2008年)

 

佐藤耕紀

『今さらだけど、ちゃんと知っておきたい「経営学」』

(同文館出版、2021年)税込1870円

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