今回も、著書のボツネタから。
前回の「組織(ヒエラルキー)か、市場か」という話の続きです。
これも重要なトピックスではありますが、やや専門的で難しくなってしまったように思えて、最終的には削りました。
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このように、「組織」(ヒエラルキー)と「市場」のどちらで業務(取引)を行うのが効率的かという問題は、以前から議論されていました。
やがて、これらの中間的な形態である「ネットワーク」(network)に注目が集まるようになりました。
経営学者のクレモンズ(Eric K. Clemons)らは、IT(情報技術)によって「中間形態への移行」(move to the middle)が起こると考えました。
彼らは、「ITによって、所有や垂直統合の必要性は小さくなり、アウトソーシングが増える」と考えました。
しかし一方で、「企業は、密接な協力と調整を行える少数の供給者との、長期的な取引を好む」とも考えました。
そうすると、「組織」(ヒエラルキー)も「市場」も、両者の中間形態である「ネットワーク」に近づいていくことになります[1]。
経営学者のパウエル(Walter W. Powell)は、「市場でもヒエラルキーでもない:ネットワーク型の組織」と題した論文で、いくつかの具体例とともに、ネットワーク型の組織の特徴を描いています[2]。
映画産業の人々(プロデューサー、監督、カメラマン、俳優、音楽家)は、とても流動的である。彼らは公式の組織とは安定的な関係をもたず、スタジオからスタジオ、プロジェクトからプロジェクトへと、わたり歩く。しかし、FaulknerとAndersonは、15年以上にわたって、2430以上の映画の関係者を分析し、こうした人々の関係にはかなりの安定性があり、契約は繰り返されるのがふつうであることを示した・・・映画産業の主要な人々が、過去に一緒に仕事をして、信頼できることがわかっている人間を頼るのは不思議ではない。(p.308)
ネットワーク型の社会組織は、多くの文化産業、研究や知識生産、その他のさまざまな工業地域でみられる・・・こうした異なる活動に共通してみられるのは、生産現場での実践的な経験や、変化する市場の要求に応じて新製品を生み出す戦略的な能力をもった、ある種の熟練した労働力である。そうした仕事を行う人々は、個別の業務にかぎらず、幅広い活動に応用できる知識をもっている。こうした人材と補完性をもつ組織は、非常に透過的で、つまり境界がはっきりせず、仕事上の役割はあいまいで、責任は重複しており、チームにまたがるメンバーや、他の組織のメンバーとの仕事上のむすびつきが強い。(p.309)
[1] Clemons, Eric K., Sashidhar P. Reddi, and Michael C. Row (1993), "The Impact of Information Technology on the Organization of Economic Activity: The "Move to the Middle" Hypothesis," Journal of Management Information Systems, 10-2, pp.9-35, p.13
[2] Powell, Walter W. (1990), "Neither Market nor Hierarchy: Network Forms of Organization," Research in Organizational Behavior, 12, pp.295-336
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