(経営学者)佐藤 耕紀 のブログ

経営学の紹介 & Coffee Break(写真、紀行、音楽など)

中央集権と自律分散?: 機能別組織と事業部制組織

    今回も、著書のボツネタから。

    前回の続きとして読んでいただければと思います。

    機能別組織と事業部制組織は、伝統的な経営学の教科書には必ず出てくるようなトピックスです。

    ただ、少々込み入った話になってしまい、現代の組織の説明としては古くなってきた感もあるので、最終的には削りました。

 ***** 

    20世紀を通じて、多くの大組織は、以前よりもネットワーク型の構造へと変化してきました。その歴史を簡単に振り返っておきましょう。

    1920年代から、大組織の構造は集権的な「機能別」(functional)から、分権的な「事業部制」(multidivisional)へと移行しました。英語の頭文字をとって、事業部制のことを「M型」と呼ぶこともあります。

    経営の歴史を研究したチャンドラー(Alfred D. Chandler, Jr.)は、次のように書いています。

 

    大企業のマネジメントに使われたのは、2つの基本的な組織構造だけでした。1つは、第1次世界大戦の前にGEとデュポンによって完成された、集権的な機能別の組織でした。もう1つは、1920年代にGMとデュポンで最初に発達した、事業部制の分権的な構造でした。前者は主に、ひとつの主要製品や地域市場へ向けて、単一の商品ラインを生産する企業で使われました。後者は、複数の製品や地域市場へ向けて、いくつかの商品ラインを製造する企業で使われました。

  …only two basic organizational structures have been used for the management of large industrial enterprises. One is the centralized, functional departmentalized type perfected by General Electric and Du Pont before World War I. The other is the multidivisional, decentralized structure initially developed at General Motors and also at Du Pont in the 1920s. The first has been used primarily by companies producing a single line of goods for one major product or regional market, the second by those manufacturing several lines for a number of product and regional markets.[1]

 

    機能別と事業部制の単純化した組織図は、以下のようなものです。

 

  • 機能別の組織図

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    どちらも「開発」「生産」「販売」という3つの機能と、「テレビ」「カメラ」「スマホ」という3つの事業をもっています。

    機能別の組織は、社長のすぐ下が機能別に分かれています。

    事業部制の組織は、社長のすぐ下が事業別に分かれています。

    この2つの構造には、マネジメントの面で、どんな違いがあるのでしょうか。

    先に、下の「事業部制」から見ましょう。この構造の特徴は、「テレビ」「カメラ」「スマホ」という事業部それぞれが、「開発」「生産」「販売」という機能すべてを、自前で持っていることです。

    同じような機能を別々にもつわけですから、無駄な重複が生じているともいえます。しかしそのおかげで、どの事業部も独立した会社のように、自分の判断で自由に動けるという長所もあります。

    事業部のことはすべて事業部長にまかせて、彼らのやる気と創意工夫を活かすことができます。事業部は、いちいち本社におうかがいを立てる必要がないので、臨機応変に迅速な行動をとれます。自律・分権のマネジメントです。

    上の「機能別」の方は、機能の重複がないという意味では効率的です。しかしそのために、調整が複雑になるという欠点をもっています。「開発」「生産」「販売」の各機能が、「テレビ」「カメラ」「スマホ」の各事業と、いちいち調整する必要が出てきます。

    たとえば、テレビ部長もカメラ部長も、自分の担当する製品を早く生産したいとします。しかし、工場の設備や人員の一部が共用だと、どちらが優先して使うのか、生産担当の役員もまじえて、いちいち交渉や調整をしなければならないでしょう。

    機能部門どうしの調整も必要になります。たとえば「開発部門は技術力を活かしたい」「生産部門は製造効率やコストを気にする」「販売部門は顧客の要望に応えたい」など、考え方の違いから部門の間で対立が起こることもあるでしょう。機能別に切り分けた縦割りの組織では、セクショナリズム(8-4)が起こりがちです。

    事業部制の会社でテレビの売り上げが悪ければ、それは明らかにテレビ事業部長の責任でしょう。しかし、機能別の会社でテレビの売れ行きがが悪くても、それは開発部門のせいのか、生産部門の責任なのか、販売部門が悪いのか、はっきりしません。

    それぞれの機能が不可分に依存しあってビジネスが完結するので、機能ごとの貢献度や責任が明確にならないのです。そのため、「責任のなすり合い」のようなことが起こりやすいといえます。

    機能部門どうしの対立を最終的に調整するのは、社長しかいません。しかし、多くの事業を抱える大企業では、そうした調整は複雑になります。いかに有能な社長でも、あまりにも多くの調整が持ち込まれると、判断が遅れたり、不正確になるでしょう。状況の変化が速いときには、決定の遅れは致命的でしょう。

    そのため、業務が複雑になり、環境の変化が速くなるにつれて、多くの大企業では機能別のマネジメントが難しくなり、事業部制へと構造を変えました。中央集権から自律分散への移行ともいえるでしょう。

 

[1] 引用部分は、以下の原著から私が翻訳しました。翻訳書も紹介しておきます。Chandler, Alfred D. The Visible Hand: The managerial revolution in American business, Harvard U.P., 1977, p.463;アルフレッド・D・チャンドラー著、鳥羽欽一郎・小林袈裟治訳『経営者の時代 アメリカ産業における近代企業の成立』(東洋経済新報社、1979年)

 

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