(経営学者)佐藤 耕紀 のブログ

経営学の紹介 & Coffee Break(写真、紀行、音楽など)

「TEAM OF TEAMS」ってなに?: 権限移譲

    著書の8-12~8-14で、『TEAM OF TEAMS』という本の内容を紹介しました。

    紙幅の関係で、著書では大幅にカットせざるを得なかったのですが、とても重要なことがわかりやすく書かれているので、ここでは少し長めに引用しておきます。

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    2003年から2008年まで、米国の特殊部隊(Joint Special Operations Task Force)を率いてイラクアルカイダと戦ったマクリスタル(Stanley McChrystal)元陸軍大将は、2015年に『Team of Teams』という本を出しました[1]

    この本では、当初の苦戦から、組織をネットワーク型へと変えることで事態を打開していった経緯が描かれています。

    かなり分厚い本で、内容をすべて紹介することはできませんが、以下に示す抜粋だけでも、要点は伝わると思います。

 

    厳正なヒエラルキーと士官の絶対的権力は実行力を衰えさせ、戦闘に赴いた兵士たちが素早く順応する力を抑制してしまう。ここぞというチャンスに対応するために、わざわざ時間を割いて遠方の士官からの細かな指導を仰がねばならないとしたら、伝統的な秩序と規律の代償はあまりにも高いものとなるだろう。・・・慎重に制御された情報は長い距離を移動しなければならず、決定は伝わるまでに狭き門をくぐらなくてはならない。それは最も効率的であるはずの我々のシステムを耐えがたいほど低速なものにする。かつては信頼性の証だった指揮系統は、今や我々のペースを抑えるものになった。データを安全に保っていた部門間の仕切りやセキュリティーチェックは機敏な敵と戦うのに必要な情報交換を阻害する。仲間内で競り合う文化は、以前なら緊張感を保つのに役立ったが、いまやそれは我々を機能不全に陥れる。かつて事故を防いでいた規則や制限は、いまでは創造性を妨げる。・・・相互依存が進んだせいで、縦割り組織はもはや環境を正確に反映するものではなくなった。どこで起きた出来事であれ、いまやすべての者にとって重要となる。部局ごとの壁がうまく機能するのは、それぞれの作戦地域が密接につながっていないときだけだ。ネイビーシールズと陸軍特殊部隊の隊員を隔てておくことは、対処すべき問題が分かれている限り問題ない・・・しかし、それはもはやうまく機能しない。(p.151-152)

 

    ・・・よく攻撃の判断を求められた。日中であれば、たいてい精密爆撃についてだ。こちらに犠牲が出たり、民間人を巻き込んだりする恐れもあるため、交戦状態にない場合に空爆を行うには最高指揮官である私の承認を得るという手続きが必要だったのだ。

    私が「説明しろ」と言うと、いつも地図や写真、標的の関連情報のプリントアウトを何枚か見せられた。それで、作戦が妥当か、情報が標的の現在地を断定するのに十分か、空爆以外の選択肢がないかを判断するのだ。手短に資料に目を通し、やり取りをした後で、私は空爆を認めてほしいかと尋ねる。すると相手は「何のために起こしたと思ってるんだ?」という顔でうなずく。私はいつも彼らの望むようにした。

    寝ているところを起こされ、人の生死に関わる決断を下す仕事は、私に指揮官としての自覚を持たせるとともに、自分が重要で必要な存在だと感じさせてくれた。それこそが、多くの組織指導者が求めてやまない感覚だ。しかし、私はじきに、このプロセスにおいて自分にどれだけ価値があるのかと疑問を持ち始めた。というのも、私が判断しなければならないのは、前の晩にずっと追いかけていた標的についてではなく、その場で説明される状況以上のことは知らなかったからだ。気の利いた質問ぐらいはできるが、自分の判断力が同僚たちより抜群に優れているなどという幻想は抱いていない。それに、私には自分が望むほどの深い洞察力はなかった。やってくる部下たちがその問題に一番詳しいのだから、ほとんどの場合、彼らの考えを単純に信頼した。承認することが私の役割だったが、そのプロセスを経なければならないために動きが遅れて一瞬のチャンスを逃すこともあった。(p.352-353)

 

    私はリーダーの役割の本質について、あらためて考えるようになった。私の承認を待ったからといってより良い結果が出るわけではない。優先すべきは、時機を逸する前に最善の選択をすることだ。私は、特別なことがない限り自分が介入してもさして意味はないことに気づき、やり方を変えた。私が空爆などを決める際の思考の筋道を司令部全体に伝え、自分たちで判断するよう命じたのだ。誰の判断であれ最終的な責任は私にあり、部下たちの結論も私とほとんど変わらなかったがそれでも、こうすれば必要な行動をとる権限をチームに与えられる。

    常に上の判断を仰ぐこれまでのやり方は、組織に時間的余裕があることが前提となる。より正確に言うなら、判断の遅れによる代償は、監督不行き届きで失うものより小さいことが前提となる。しかしその前提は、2004年には、もう成り立たなかった。優秀な部下に判断を委ねるリスクより、行動が遅れるリスクのほうが高くなっていたのである。(p.365)

 

    我々が「実行権限の付与」と名づけたこの取り組みは、総じて素晴らしい成果を挙げた。戦いでは、敵を捕らえ、攻撃を防ぐためにスピードが不可欠であり、判断が速くなったことは極めて重要だった。さらに目を見張る重要な発見もあった。スピードが増し、権限をますます下へと移しているにもかかわらず、判断の質は下がるどころか、上がっていった。

    我々は、明日まで時間をかけて90パーセントを解決するより、今日のうちに70パーセントを解決するほうがよいと信じて権限の分散を進めた。そして実際には、明日までかければ70パーセントしか解決できなかった問題を、今日やることで90パーセント解決できた。

    これは驚きだった。上に立つ者のほうが優れた見識を持っているものだという固定観念がひっくり返されたのだから。意外な結果ではあったが、その効果を持続させて高めていくためには、その根本的な理由を解明する必要があった。

    理由の一つは、意思決定時の心理にあった。人間は自ら決断をした時のほうが、結果を出そうという意識が働くので力を注ぐようになる。もう一つは単純で、我々のテクノロジーをもってしても、上の者は現場の人間ほど実際に起きていることを理解していないからである。実行中の作戦を映像で見られるのは素晴らしいが、現場の指揮官は、気温や疲労、さらには隊員たちの性格といったことまですべて、映像や音声を通しては得られない形で複雑な状況を把握している。(p.374)

 

    従来の図式は、部下が情報を出し、それをもとに指揮官が全体に対して命令するというものだったが、我々はそれを逆転させた。部下が背景と状況を理解し、連携を取り合って主体的に判断できるよう、上の者たちに情報を出させたのだ。(p.377)

 

    ネットワーク型の敵を倒すため、我々もネットワークになった。「チームのなかのチーム」になったのだ。(p.437)

 

[1] スタンリー・マクリスタル著 with タントゥム・コリンズ、デビッド・シルバーマン、クリス・ファッセル、吉川南・尼丁千津子・高取芳彦訳『TEAM OF TEAMS 複雑化する世界で戦うための新原則』(日経BP、2016年)

 

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