今回も、著書のボツネタから。
重要なトピックスではあるのですが、話がちょっと難しくなってしまったように思えて、最終的には削りました。
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経営学では、さまざまな要素からなる組織の全体的な特徴を「組織構造」(organizational structure)、または「組織設計」(organizational design)と呼びます。
官僚制について、組織の構造や設計という観点から考えてみましょう。
官僚制の第1の特徴は「規則による規律」、第2の特徴は「明確な権限」でした。これらは組織をどのように「コントロール」(control、統制)するかということに関係します。
従業員の行動のコントロールには、「公式」(formal)な方法と「非公式」(informal)な方法があります。
公式というのは、「仕事の手順や規則を公式化(文書化、マニュアル化)して、厳格に守らせる」ということです。
公式化すれば、「きちんと間違いなく徹底する」ことにはなります。しかし、「硬直的」「杓子定規」「融通がきかない」といった弊害にもつながります。いうまでもなく、官僚制は公式なコントロールを特徴とします。
これに対して、非公式なやり方には「担当者によって対応が変わる」といった欠点があります。しかし、「型にはまらず、臨機応変に柔軟な対応をとる」こともできます。
規則やマニュアルといったものはすべて、ある時点の情報や知識にもとづいて作られます。これらは組織として経験から学んだ教訓(組織学習、organizational learning)をメンバーに伝える手段としては大切なものです。
しかし、環境が変化するなかで、それらは作られた瞬間からどんどん時代遅れになっていきます。状況の変化とともに、つくられた時点では想定されなかった問題が次々と発生します。
ジョンソン・エンド・ジョンソン社長やカルビー会長を歴任した松本晃さんは、次のように言います。
会社の経営に携わるようになってから四半世紀を越えるが、中期計画というようなものをつくったことがない・・・概して中期計画は、つくるのに莫大な時間と労力、そしてお金が掛かる割にうまくいっても最初の1年だけ、3年もたつと忘れ去られてしまう。
日々変化する世界の中にあって、私には経営者として今から1年後の世界を予測する能力はない。ましてや5年後の世界、日本、産業、会社を予測・予知する能力は断じてない。[1]
「セブン&アイHLDGS」の会長を務めた鈴木敏文さんも、次のように言います。
長期計画を立てますと、どうしても計画を固定的に考えてしまい、消費や経済の環境変化に柔軟に対応できなくなる恐れがあります。そこで私は、これまであえて戦略や長期計画を示さずに「変化対応」と言い続けてきました。[2]
また、経営学者のハナン(Michael T. Hannan)とフリーマン(John H. Freeman)は、次のように書いています。
環境の確実性が高いとき、組織の業務は定型反復的で、公式化された規則と、公式化された手続に従業員を従わせるための教育投資によって調整が行われる。・・・・・・確実性が低いときは、組織の業務はあまり定型反復的ではない。そういう状況では、手続システムを開発・維持するための投資は生産的ではなく、もっと創造的な対応をとることができる、あまり公式化されていないシステムに資源を配分する組織形態が最適となる。[3]
このように、環境の変化が速いときには、公式の計画やルールはうまく機能しないと考えられています。
[1] 経済界「中期計画は「ロシア式」ではなく「Dreams Come True!」で」2015年2月25日、http://net.keizaikai.co.jp/archives/16069
[2] セブン&アイHLDGS「四季報」2011年WINTER、https://www.7andi.com/company/conversation/113/1.html
[3] Hannan, Michael T. and John Freeman, "The Population Ecology of Organizations," American Journal of Sociology, 82-5, 1977, pp.929-964, p.949
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