(経営学者)佐藤 耕紀 のブログ

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叱って成績が上がるのは錯覚だった?: 平均への回帰

    今回もボツネタから。

    著書の7-6で、「平均への回帰」という話を書きました。

    ここでは、当初書いて、最終的にはボツになったバージョンを紹介します。

 *****

    ノーベル賞を授与された行動経済学者のカーネマンは、かつてイスラエル空軍に招かれ、訓練教官に対して心理学を教えていました。

    彼は教官たちを前に「能力を向上させるには、叱るよりも褒めるほうが効果的だ」と力説しました。そのことは、人間を含む多くの動物の実験で確かめられていました。

    カーネマンが講義を終えると、訓練教官の1人が反論しました。彼は「実際には訓練生を褒めると成績が下がり、叱ると成績が上がる」と主張しました。

    このことについてカーネマンは、次のように書いています[1]

 

    彼の観察は鋭く、事実に即している。教官が訓練生の操縦を誉めたときは次回にへたくそになり、叱ったときは次回にうまくなる。そこまでは正しい。だが、誉めるとへたになり、叱るとうまくなるという推論は、完全に的外れだ。教官が観察したのは「平均への回帰(regression to the mean)」として知られる現象で、この場合には訓練生の出来がランダムに変動しただけなのである。教官が訓練生を誉めるのは、当然ながら、訓練生が平均をかなり上回る腕前を見せたときだけである。だが訓練生は、たぶんそのときたまたまうまく操縦できただけだから、教官に誉められようがどうしようが、次にはそうはうまくいかない可能性が高い。同様に、教官が訓練生をどなりつけるのは、平均を大幅に下回るほど不出来だったときだけである。したがって教官が何もしなくても、次は多かれ少なかれましになる可能性が高い。つまりベテラン教官は、ランダム事象につきものの変動に因果関係を当てはめたわけである。

 

    この「平均への回帰」(regression to the mean)による錯覚で、指導者は叱る効果を過大に評価しがちです。しかしカーネマンも言うように、心理学では一般的に「叱る」よりも「褒める」ほうが効果的なことが知られています。

 

[1] ダニエルカーネマン著、村井章子訳『ファスト&スロー(上) あなたの意思はどのように決まるか?』(早川書房、2014年)、第17章

 

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