今回は著書の第5章から、5-1の内容を紹介します。
ビジネスの現場で最も有名で、よくつかわれている経営理論は、ポーター(Michael E. Porter)の競争戦略ではないでしょうか[1]。
星野リゾートの星野佳路社長は、あるテレビ番組で「私の1冊」を尋ねられて、ポーターの『競争の戦略』をあげていました。
どれが大事だったか聞かれると、私はこれを言わざるを得ないと思っているんです。マイケル・ポーターという教授がいまして、ビジネスの戦略本なんです。これが自分のキャリアを変えたと思っているんです。「やるべきこと」はたくさんあるわけです。その中で「何をやらないか」を決めることが戦略だというのが、やはり大きなメッセージです。
そこから私たち星野リゾートは、ホテルの「所有」はやめようと、「運営」だけに特化しようと決めたんです。[2]
- 図8 ポーターの競争戦略
参照:以下の文献から翻訳して作成。()内は筆者が加筆。Porter, Michael E., Competitive Advantage: Creating and Sustaining Superior Performance, Free Press, 1985.
4つの基本戦略
図8のように、ポーターは2行×2列の分割表で、4つの基本戦略を示しました。このシンプルさが人気の秘密かもしれません。
左右を分けるのは「競争優位」(competitive advantage)、つまり「どんなことでライバルより優位に立つか」です。図の左側は「低コスト」(lower cost)、右側は「差別化」(differentiation)を武器にする戦略です。
「低コスト」は、ライバルよりも低いコストで、競争を戦います。
コストが低ければ、ライバルと同等の価格設定でも、より多くの利益をあげることができます。自社は利益を確保しながら、ライバルが追随できないところまで価格を下げて、市場シェアの拡大をはかることもできます。
低コストを実現する方法には、「速度の経済性」や「密度の経済性」を含む「規模の経済性」(4-6)、「範囲の経済性」(4-4)、「経験効果」(4-7)といったものがあります。
「差別化」は、競争相手にはない「独自の価値や魅力」によって、高価格を実現します。
差別化された商品を好む買い手は、どうしてもその商品がほしければ、売り手の決めた値段で買うしかありません。これはある意味で「独占」のように「価格支配力」(3-5)が強い状況です。商品の「付加価値」(9-6)が高い、「顧客ロイヤルティ」(3-5)が高いと言ってもよいでしょう。
差別化に成功すれば、ライバルとの価格競争に陥ることなく、大きな利幅を維持できます。ライバルと同じ土俵で戦うというよりは、「競争を避ける」「棲み分ける」という考えに近いかもしれません。
ポーターの競争戦略(図8)で上下を分けるのは「競争の範囲」です。「どんな顧客をターゲットにするか」「どの地域で活動するか」「どんな商品を提供するか」「どんな技術をつかうか」といったことです。上側は、幅広い顧客層をターゲットにする「広い標的」です。下側は、狭い範囲に活動を絞る「狭い標的」です。
[1] M. E. ポーター著、土岐坤・中辻萬冶・服部照夫訳『競争の戦略』(ダイヤモンド社、1980年);M. E. ポーター著、土岐坤・中辻萬冶・小野寺武夫訳『競争優位の戦略』(ダイヤモンド社、1985年)
[2] TBS「がっちりマンデー」2019年1月20日放送、https://www.tbs.co.jp/gacchiri/archives/2019/0120.html
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