今回は著書の第4章から、4-6の内容を紹介します。
家賃や人件費は、売上に関係なく面積や時間で決まる「固定費」です。一定のスペースに多くの席を設けたり、一定の時間内に多くのお客に来てもらえば、一定の費用から大きな売上をあげられます。
このように「一定の費用(固定費)に対する効果(売上)を大きくして、費用対効果(経済性)を高める」のが「規模の経済性」(economies of scale)です。
固定費に対して、複数事業(複数商品)の合計売上を増やすのが「範囲の経済性」(4-4)で、単一事業(単一商品)の売上を増やすのが「規模の経済性」です。
たとえば、人件費や家賃のように、時間に応じて発生する固定費があります。そうした費用に対して販売量を増やす、つまり「時間あたりの販売量を増やす」ことから生まれる規模の経済性を、チャンドラーは「速度の経済性」(economies of speed)と呼びました[1]。
また、家賃や輸送費のように、空間の広さや距離に応じて発生する費用もあります。そうした固定費に対して販売量を増やす、つまり「空間あたりの販売量を増やす」ことから生まれる規模の経済性を「密度の経済性」(economies of density)といいます。
「密度の経済性」の具体例:ドミナント戦略と宅配便
コンビニなどのチェーン・ストアでは「ドミナント戦略」(dominant strategy)と呼ばれる出店戦略があります。『すごい立地戦略』という本では、次のように紹介されています。
セブン‐イレブンは集中出店方式(ドミナント方式)に則って出店しています。お弁当などは「製造工場から3時間以内に店舗に届かなければならない」決まりなので、そのための工場建設、インフラ整備に時間がかかります。
そして、工場やインフラが整ったタイミングで一気に数店舗を同時オープンさせます。この方法で出店を続けているので、今までまったくなかった地域に、ある日突然複数のセブン‐イレブンがオープンする、なんてことがあるのです。[2]
地域ごとに工場やインフラ整備の固定費がかかるため、1つの地域に多くのお店を出店して、固定費に対する販売量を増やし、平均費用を下げるわけです。
ヤマト運輸が始めた「宅急便」も、密度の経済性を考えたビジネス・モデルでした。あるテレビ番組[3]で、瀬戸薫会長(当時)は次のように語っています。
すごく荷物が集まると、密度化すると。要は、単位面積あたりに配達する荷物がすごく増えてくる。ですから個人(を相手にする宅配)をやっても、ある一定以上の荷物が集まってくれば、必ず採算に乗る。これをやっぱり小倉は考えたんですね、計算したんです。
発言の中に出てくる「小倉」というのは、ヤマト運輸の2代目社長で、宅急便の生みの親であり、名著といわれる『経営学』[4]を書いた小倉昌男さんです。
過密の問題があるとはいえ、大都市に多くの人が集まるのも、密度の経済性があるからでしょう。「コンパクト・シティ」という構想があります。「コンパクトな地域内に多くの人が住んで、中心部に学校、職場、病院、商業施設などを配置すれば、密度の経済性によって効率的で利便性の高い街づくりができる」という考え方です。
[1] アルフレッド・D・チャンドラー著、鳥羽欽一郎・小林袈裟治訳『経営者の時代 アメリカ産業における近代企業の成立』(東洋経済新報社、1979年)、p.414
[2] 榎本篤史著『すごい立地戦略 街は、ビジネスヒントの宝庫だった』(PHP研究所、2017年)、第2章
[3] テレビ東京「カンブリア宮殿」2011年10月20日放送
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