今回は著書の第3章から、3-7の内容を紹介します。
スイッチング・コストやロック・インを利用した「キャプティブ価格」(captive pricing)という戦略もあります。
これは「補完的な商品群のなかで、入り口になる商品の価格を安くして顧客を誘い込み、ロック・インしてから、他の補完商品で大きな利益を得る戦略」です。キャプティブは「囚われた、監禁された」という意味です。監禁というと物騒ですが、顧客をロック・イン(閉じ込め)するのはたしかです。
執筆時点でプリンタの売れ筋商品を「価格.com」で見ると、6000円くらいのインクジェット・プリンタが1位になっていました。コピーやスキャンもできて、ふつうにつかうには十分な機能のプリンタです。
このプリンタの純正インクは、大容量カートリッジが1セットで5000円くらいでした。インクを1回買い換えると、プリンタ本体とあまり変わらない出費になってしまいます。
補完性と代替性
プリンタとインクは「補完商品」(complementary goods)です。経済学ではたいてい「補完財」と翻訳されます。「お互いの価値を高め合う商品」のことです。
たとえば、「ハミガキ」だけあってもあまりつかいようがありませんが、「ハブラシ」とセットになると、毎日なくてはならない存在になります。これらは、お互いに相手の価値を高める補完商品でしょう。
私が学生時代に読んだ教科書には、ピーナツとビールの例が載っていたと思います。あるいはパンとバターでもいいのですが、「片方だけのときよりも、両方そろったときに価値が高くなる」ような組み合わせが補完商品です。「片方を買うと、もう一方も買いたくなる」ということです。そうした性質を「補完性」(complementarity)といいます。
ついでにいうと「代替商品」(substitute goods)というものもあります。これは「代わりになる」「一方があれば、もう一方の必要性が小さくなる」ような商品の組み合わせです。そうした性質を「代替性」(substitutability)といいます。
ハミガキとマウス・ウォッシュ(洗口液)は、あまり同時にはつかわず、どちらかを選ぶことが多いので、代替商品でしょう。ピーナツとポテトチップス、ビールとウイスキー、パンとごはん、バターとマーガリンなども代替商品でしょう。
キャプティブ価格の戦略
さて、プリンタとインクの補完性はとても強いので、一度プリンタを売れば、その後は繰り返しインクも買ってもらえるはずです。
そこで売り手は、入り口になるプリンタの値段を安くして、顧客を誘い込もうとします。顧客はプリンタが安いことにはすぐ気がつきますが、インクが高いことには買い換えるまで気づかないかもしれません。
プリンタを買ってつかい方を覚えた顧客には、スイッチング・コストが発生します。他のプリンタに乗り換えると、その購入費だけでなく、新たに操作を覚える時間やストレスといった費用もかかります。
こうして売り手は、プリンタの価格を安くして顧客を誘い込み、ロック・インしてから、インクでゆっくりと利益をあげる戦略をとります。これが「キャプティブ価格」です。
キャプティブ価格は、「お客を呼ぶ商品」と「利益をあげる商品」の役割分担を考えるという点では、次に紹介する「マージン・ミックス」とよく似ています。
キャプティブ価格の特徴は、耐久消費財(安全カミソリやゲーム機や携帯電話)を安く売って、お客を長期間ロック・インし、消耗品や補完商品(替刃やゲーム・ソフトや通話料)から大きな利益を得ようとするころにあります。
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