今回は著書の第2章から、2-10の内容を紹介します。
意思決定をするうえで「埋没費用」(sunk cost)には注意が必要です。英語のまま「サンク・コスト」と表記されることもあります。
みなさんなら、次のような状況についてどう思いますか?
今つきあっている恋人と別れて、別の人とつきあおうかと迷っている。今の恋人とつきあうために、たくさんのプレゼントをして、懸命に尽くしてきた。そうした過去の「費用」がもったいないので、やはり今のままの関係を続けようか・・・。
この例にあるような「費用」が「埋没費用」です。それは「過去につかってしまって、今からはもう取り戻せない費用」です。今の恋人との関係を続けても、新しい恋人とつきあっても、埋没費用を回収できないことには変わりがありません。
選択をするときに考えるべきは、費用や効果の「比較」「違い」です。どちらの選択肢でも変わらない費用は、比較の対象になりません。今後の人生を考えて、もし新しい恋人のほうがよいと思うのなら、埋没費用はきれいさっぱり忘れて、新しい人生を歩む方がよいのでしょう。
つまらない映画を最後まで見る?
ノンフィクション作家の沢木耕太郎さんが、自身の体験をもとに書いた『深夜特急』という紀行小説があります。そのなかで、主人公がパキスタンのペシャワールで映画館に入り、映画がつまらないので途中で見るのをやめて出てくるというシーンがあります[1]。
みなさんだったら、1900円を払って映画館に入ったけれども、どうにもつまらなくて見る気がなくなったというとき、どうするでしょうか。
払った料金がもったいないので、最後まで見るという人もいるかもしれません。しかし最後まで見ても見なくても、入場料金が戻ってこないのは同じです。
つまらない映画を最後まで見ると、払った1900円に加えて、貴重な時間まで失うことになります。見る価値のない映画だとわかったら、さっさと映画館を出るのが正解だということになります(この本は最後まで読んでいただけることを心から願っています)。
ところで、『深夜特急』の話には続きがあります。映画館を出てしばらく歩くと、警官が追いかけてきて、主人公は殴られ逮捕されそうになります。映画館に爆弾をしかけたテロリストに間違えられたというのです。
さて、私も若い頃はそうでしたが、「食べ放題」の店で「元をとる」と言って、満腹なのにさらに食べようとする人がいます。しかし考えてみると、無理をして食べても苦しいうえに、肥満になったり健康を損ねたりで、何もよいことはありません。
たくさん食べても食べなくても、注文した後では、お金はもう戻ってきません。埋没費用です。あとは効果を最大にする、つまり自分が楽しんで満足できるような食べ方をするのが賢明なのでしょう。苦しいのをがまんして食べても効果を下げるばかりで、費用の節約にはなりません。
埋没費用に惑わされて判断を誤る心理は「埋没費用効果」(sunk cost effect)と呼ばれます。「コンコルド効果」(Concorde effect)とも呼ばれます。
「コンコルド」というのは、かつて英仏が共同開発した超音速旅客機です。開発の途中でさまざまな問題が発生して、前途に暗雲が立ち込めました。その時点で開発を中止すればよかったのですが、すでに莫大な投資をしていたために後へは引けず、ますます傷口を広げたといわれます。
[1] 沢木耕太郎『深夜特急4 シルクロード』(新潮社、1994年)、第十章
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