(経営学者)佐藤 耕紀 のブログ

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秋元康さんが最も重要と考えるヒットの条件: 人材の差別化と希少価値

    今回は著書第9章から、9-6の内容を紹介します。

 

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    人材の価値を高める戦略も、基本的には商品の競争戦略と同じでしょう。いくらでも代わりのあるコモディティ(3-5)では、人材もあまり高く評価されません。独自の価値や魅力をもつように差別化することが大切でしょう。

    AKB48を立ち上げるなど、ヒットメーカーとして知られる秋元康さんは、「ヒットの一番大事な条件は何か」と聞かれて、「『One of them』になっては手にとるきっかけにならないので、それ以外のもの、色が違うとか形が違うものをつくる」と答えています。

    たとえば、学校の歌の一般公募があるとします。そうすると校歌ということから「清く正しく」「希望の光」など、それらしいキーワードを連ねた応募が多数を占めるでしょう。そういう多数派と同じことはせず、あえて逆を行くというのです[1]

    これは、人材の価値を高める戦略にも応用できる考え方でしょう。

    経営戦略の代表的な理論のひとつ「資源ベース理論」(5-9)では、持続的な競争優位につながる資源は、①価値がある、②希少である、③模倣や代替が難しい、というものだとされます。

    人材でいえば、「余人をもって代えがたい」才能を見つける(磨く)ということでしょう。

    ゲーム理論(2-1)で「付加価値」(added value)という考え方があります[2]。これは、「あなたが世の中に付け加えている価値」「あなたがいなくなると、まわりの人はどれくらい困るか」ということです。付加価値の高い人、必要不可欠な人は、いなくなると困るので大切にされます。つまり交渉力が強く、高い収入を期待できるということになります。

    希少で付加価値の高い人材になるには、どうすればよいのでしょうか。

    起業家の堀江貴文さんは、「ある分野で100万人に1人の人材になるのはほぼ不可能だが、100人に1人の人材くらいなら、がんばればなれる。3つの分野で1/100になれれば、(1/100)×(1/100)×(1/100)で、100万人に1人の人材になれる」という意味のことを言っています[3]

    ひとつのことだけで世界のトップクラスになるのは、宝くじに当たるような低い確率への挑戦です。自分の才能のレパートリーのなかで、相乗効果で大きな価値を生む組み合わせを見つけることが大切なのでしょう。

 

    私は葉加瀬太郎さんというバイオリニストが好きです。

    葉加瀬さんは国内コンクールで入賞し、東京藝術大学で学んだ一流のバイオリニストです。しかし葉加瀬さんの魅力は、おそらく演奏技術だけではないのでしょう。

    「美しいバイオリンの音色」とともに、「魅力的なメロディー」「個性的なルックス」「動きやパフォーマンス」「トークの面白さ」といった才能の組み合わせが、葉加瀬さんにしかない独自の存在感を生んでいるのではないでしょうか。補完性のある複数の能力を組み合わせて、相乗効果を生んでいるということです。

    バイオリンのテクニックだけでいえば、葉加瀬さんに匹敵する人も相当いるのでしょう。しかし、知名度や収入に反映される人材価値という意味では、葉加瀬さんをしのぐバイオリニストはほとんどいないのではないでしょうか。

 

[1] NHK「仕事学のすすめ」制作班編『秋元康の仕事学』(NHK出版、2011)

[2] B・J・ネイルバフ & A・M・ブランデンバーガー著、嶋津祐一・東田啓作訳『コーペティション経営』(日本経済新聞社、1997年)、p.70

[3] 落合陽一・堀江貴文『10年後の仕事図鑑 新たに始まる世界で、君はどう生きるか』(SBクリエイティブ、2018年)、Chap.3、「代替不可能な価値は、仕事ではなく趣味で生み出せ」

 

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