(経営学者)佐藤 耕紀 のブログ

経営学の紹介 & Coffee Break(写真、紀行、音楽など)

選挙では背の高い方が勝つ?: 権威とハロー効果

    今回は著書第7章から、7-11の内容を紹介します。

 

f:id:Management_Study:20210619184013j:plain

 

    バーナードはリーダーの「権威」(authority)について、面白い説明をしています。

    「リーダーが部下に命令して、部下がそれをきちんと実行したら、リーダーには権威がある。もし部下が言うことを聞かないなら、リーダーには権威がない。権威があるかどうかを決めるのは、リーダーではなく部下の方だ」というものです[1]。リーダーの権威は「部下に頼んだことを一生懸命やってもらえる力」ということになります。

    「面従腹背」という言葉があります。「リーダーの面前では従うふりをするが、腹の中では背(そむ)く」ということです。「サボる」という言葉もありますが、上司に言われたことを「はい、わかりました」と適当に返事だけしておいて、実際にはやらずに放っておく、手を抜いてお茶を濁す、ということもあるでしょう。そうした権威の欠如はとてもよくみられると、バーナードは言います。

    権威をもつのはどんなリーダーでしょうか。バーナードは、権威を2種類に分けています。

    ひとつは「地位の権威」(authority of position)です。これは社会学者のウェーバーMax Weber)が「合理的(法的)権威」(rational (legal) authority)と呼んだものに似ています[2]。たとえば「課長の指示だから従う」というように、「従うルールになっているから従う」「従わないと罰せられるから従う」というものです。リーダー個人というよりも、職務上の地位から生まれる権威です。

    もうひとつは「リーダーシップの権威」(authority of leadership)です。これは優れた知識や能力への尊敬から生まれる権威です。ウェーバーは、特別な人格や資質にともなう権威を「カリスマの権威」(charismatic authority)と呼びました。

 

ハロー効果、ステレオタイプ代表性ヒューリスティック

    「背の高さ」のような生まれつきの要因が、リーダーのカリスマ性につながることもあります。社会心理学者のブレイカー(Nancy M. Blaker)らは、次のように書いています。

 

    いろいろな研究から、ステータスやリーダーシップの指標は、背の高さとプラスに関係することがわかっている。高身長は、収入(Judge & Cable, 2004)、職場での権威(Gawley, Perks, & Curtis, 2009)、軍隊での階級(Masur, Masur, & Keating, 1984)とプラスに相関している。さらに、管理職は平均的に、非管理職よりも背が高く(Egolf & Corder, 1991)、アメリカの科学分野の教授は一般の人々よりも背が高く(Hensley, 1993)、アメリカの大統領選挙の結果は、候補者の身長からとくによく予測される。背の高い方の候補が大統領になる確率は2倍になる(McCann, 2001)。

    ・・・進化心理学の観点から、背の高い個人はより優位で、健康的で、知的だと感じられ、リーダーにふさわしく見られるだろう。健康な堂々たる身体は、リーダーにかなりの肉体的なリスクがあった祖先の人間環境では(おそらく、とくに男性にとって)間違いなく重要なリーダーシップの資質だった。[3]

 

    多くの人は、身長のような目立つ特徴から、それ以外の性質を無意識のうちに類推します。これを社会心理学では「ハロー効果」(halo effect)といいます。顕著な特徴から連想される「ステレオタイプ」(stereotype、典型的なイメージ)を、他の側面にも当てはめてしまうのです。行動経済学ではこれを「代表性ヒューリスティック」(representativeness heuristic)と呼びます。

 

[1] チェスター I. バーナード著、山本安次郎・田杉競・飯野春樹訳『新訳 経営者の役割』(ダイヤモンド社、1968年)、p.171

[2] ウェーバーの「合法的」権威や「カリスマ的」権威について、日本語で読めるものとしては次の本が入手しやすいでしょう。マックス・ウェーバー著、濱嶋朗訳『権力と支配』(講談社、2012年)

[3] Blaker, Nancy M., Irene Rompa, Inge H. Dessing, Anne F. Vriend, Channah Herschberg and Mark van Vugt, "The height leadership advantage in men and women: Testing evolutionary psychology predictions about the perceptions of tall leaders," Group Processes & Intergroup Relations, 16-1, 2013, pp.17-27, p.17.

 

⇒「経営学」の記事一覧はこちら

⇒  ブログの概要(トップ・ページ)はこちら

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

宣伝会議」さまの実践講座に登壇しました。

www.sendenkaigi.com

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

今さらだけど、ちゃんと知っておきたい「経営学内容紹介

◆  「読者が選ぶビジネス書グランプリ2022」にノミネートされました

◆  ライザップの瀬戸健社長が、『週刊文春書評をお書きくださいました(2021年10月28日号、p.121)

単行本、聴く本(オーディオブックAudible)、電子書籍KindleKoboKinoppyhontoDoly

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

今さらだけど、ちゃんと知っておきたい「マーケティング内容紹介

◆  「二子玉川 蔦屋家電」さまで、マーケティングの月間ランキング1位になりました(2022年5月、6月、9月)。

◆  『日刊工業新聞』さまに書評が掲載されました(2022年2月7日)

f:id:Management_Study:20220112215132j:plain 

単行本、聴く本(オーディオブックAudible)、電子書籍KindleKoboKinoppyhontoDoly

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

今さらだけど、ちゃんと知っておきたい「意思決定」内容紹介

◆  『PRESIDENT』2023年2.17号の「職場の心理学」のコーナーで、「絶対に失敗が許されない人の「意思決定力」養成法」と題した著者の記事が掲載されました(p.106-109)。

単行本、聴く本(オーディオブックAudible)、電子書籍KindleKoboKinoppyhontoDoly

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆