今回も、著書のボツネタからです。
ヒエラルキーと市場の中間に「ネットワーク」があるという話の前置きに書いたのですが、紙幅の関係で削ることになりました。
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官僚的な「ヒエラルキー」と比較対照される言葉に、自由な取引が行われる「市場」があります。
ヒエラルキー(組織)で行う仕事の多くは、市場を通じて外部の業者に委託することもできます。
仕事を外部へ発注することを「アウトソーシング」(outsourcing、外部資源の活用)といいます。日本語にすると外部委託、外注です。
近年は激しい競争のなかで、得意とする分野に「選択と集中」(4-2)すべきだという考え方があります。
外部へ依頼する方が早かったり、安かったり、品質がよい仕事については、積極的にアウトソーシングする組織が増えてきました。
その一方で、経営者の松岡真宏さんは、次のように言います。
外部化すればするほど、業務を外注化する際の手間である「取引コスト」がかかってきます。これはどの業者に頼むのか、価格はいくらにするのかといったことから始まり、この部分だけ融通してもらいたいけど対応してくれるのか、といった細かい部分まで含まれます。一つひとつが積み重なると、「取引コスト」は大きくなります。社内で抱える方が、外注するより負担がかからないこともあり、必ずしも外部化が最良の選択肢ではないことに気づくはずです。外に頼むということは、自分で制御できないということですから。自社の条件に見合う業者を探すのに時間を食ってしまう可能性もあるでしょう。[1]
こうした「取引費用」(transaction cost、「取引コスト」とも表記されます)の問題を研究したのは、コース(Ronald H. Coase)やウィリアムソン(Oliver E. Williamson)で、いずれもノーベル経済学賞を授与されました。
組織のなかで「取引の内部化」(internalization of transactions)をするのと、市場で取引するのと、総合的にはどちらがよいのか。「つくるか、買うか」(make or buy)という問題です。
ファッション業界でいえば、GAP、ユニクロ、H&M、ZARAなどはSPA(アパレル製造小売業)として知られます。これは、服の企画・製造・流通・販売といった一連の業務の多くを、自前で行う方式です。
家具・インテリアのニトリも「製造小売業」を標榜し、「商品の企画や原材料の調達から、製造・物流・販売に至るまでの一連の過程を、中間コストを極力削減しながらグループ全体でプロデュースする」としています[2]。
このように、川上(企画)から川下(販売)までの一連の業務を社内に統合することを「垂直統合」(vertical integration)といいます。
これに対して、発注を受けて服の製造だけを請け負う縫製工場や、服を仕入れて販売だけを行う小売店のように、一部の業務に専門化する独立企業もあります。
時価総額(≒企業価値)で世界のトップに君臨するアップルは、得意とする製品開発に特化して、iPhoneなどの製造は台湾の鴻海などにアウトソーシングしていることで有名です[3]。
アップルのように、工場をもたずに製造をアウトソーシングすることを「ファブレス」(fabless)といいます。製造施設(fabrication facility)を持たない(less)という意味です。
[1] 日経ビジネス「「持たざる経営」が効率的とは限らない」2019年7月9日、https://business.nikkei.com/atcl/gen/19/00056/070500003/
https://www.nitorihd.co.jp/division/business_model.html
[3] DIAMOND Online「アップルがジョブズを失っても史上初の1兆ドル企業になれた理由」2019年3月22日、https://diamond.jp/articles/-/197559; 「iPhoneが成功した3つの理由、もしアップルが自ら製造していたら?」2019年3月29日、https://diamond.jp/articles/-/198264
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