今回も、著書のボツネタから。
紙幅の関係で、泣く泣く削ったところが多々あります。
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「ダイナミック・プライシング」(dynamic pricing、変動価格制)という言葉をよく聞くようになりました。
予約サイトで飛行機やホテルの料金をチェックすると、調べるタイミングによって、値段が変わっていることがあります。
同じ飛行機で同じグレードの席に座っている人たちも、実は払っている料金が違っていることがあります。同じホテルで、同じグレードの部屋に泊まっている人たちにも言えることです。
最近では、コンサートのチケット販売などで、売れ行きの現状と、過去の販売データを勘案して、「AI」(artificial intelligence、人工知能)が価格を決めていることもあります。
家電量販店も、ネット販売の売れ行きに応じて、価格を変えていることがあります。
アメリカでは、渋滞の状況に応じて、高速道路の料金を変動させているそうです[1]。
最近ではスポーツ観戦などで、人気に応じて、席ひとつひとつに違う価格を設定することも行われています。見やすい席、出入りしやすい席などは値段が高くなるようです。
販売側は、すべての席の売れた順番を把握できます。早く売れる席ほど人気があるということなので、人気に応じて値段を変えることができるのです[2]。
売り手は、さまざまな要因を考慮して「価格」(price)を決めます。
経済学の基本のひとつに「価格は需要と供給で決まる」というものがあります。「需要」(demand)というのは「(ある価格で)買い手が買いたい量」です。「供給」(supply)というのは「(ある価格で)売り手が売りたい量」です。
「需要が増えたり、供給が減れば、価格は上がる」「需要が減ったり、供給が増えれば、価格は下がる」といえます。
「価格が上がると、需要は減り、供給は増える」「価格が下がると、需要は増え、供給は減る」という言い方もできます。
「豊作貧乏」「大漁貧乏」という言葉をご存知でしょうか。
みなさんが農家だったら、豊作は喜ばしいことでしょう。しかし、あまりにも豊作だと、農作物の需要(買いたい量)よりも供給(売りたい量)が増えすぎて価格が下がり、かえって利益が少なくなることがあります。
漁業でも、魚が獲れすぎると同じようなことが起こります。一定の需要に対して、供給が過剰になって、価格が下がるということです。
「新型コロナウイルス」の影響で、2020年の4月ごろにはマスクの値段が高騰しました。需要に対して供給が足りなくなって、「マスクを買うためならもっと払ってもいい」という人がたくさん出てきたわけです。「高く売れるから値段を上げよう」という売り手も出てきて、値段が上がりました。
ところで、価格をつり上げるのは悪徳業者だと言い切ってよいのかどうか、実は古くから議論があります。「供給に対して需要が多いときに価格が上がるのは当然で、そうした市場価格は資源配分を効率的にする」という考え方もあります。
最近では、経済学者の大竹文雄先生が、次のように書いています。文中の「チケットストリート」というのは、チケットの転売業者です。
チケット転売問題について、伝統的な経済学者の多くはチケットストリート社長の西山に賛成するだろう。なぜなら、チケット転売は、価値を生み出す正当な行為だからだ。チケットが高額であっても、売り買いする人は、その取引でどちらも便益を受けている。[3]
ここで大竹先生は「交換」(exchange)の社会的な価値について言っています。ダフ屋の問題は複雑なので、興味のある方は『競争社会の歩き方』を読んでみてください。
さて、「新型コロナウイルス」の影響で、マスクの価格は上がりましたが、原油の価格は下がりました。経済活動が停滞して、原油の需要が減ったためでしょう。
このとき、原油(WTIという原油先物)の価格がマイナスになるという史上初の珍しい現象が起きました。貯蔵できる量に限りがあるため、売り手がお金を払ってでも原油を引き取ってほしいということになったようです[4]。
[1] 「ダイナミックプライシングって何?――AIで値付け臨機応変に」(日本経済新聞 夕刊、2020年3月16日)
[2] TBS「がっちりマンデー」2020年7月19日、https://gacchiri.tv/n/n5e880c50fa43
[3] 大竹文雄『競争社会の歩き方 自分の「強み」を見つけるには』(中央公論新社、2017年)、p.7
[4] 日本経済新聞「NY原油 史上初のマイナス価格、先物に売り」2020年4月27日、https://www.nikkei.com/article/DGXMZO58525420X20C20A4QM8000/
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