今回は著書の第8章から、8-5の内容を紹介します。
官僚制(ヒエラルキー)の基本原則に「命令の統一」(unity of command)というものがあります。「命令の一元性」と翻訳されることもあります。これは「すべてのメンバーは、直属の上司にだけ報告し、直属の上司だけから命令を受ける」というルールです。
ドラッカーは、「よい主人が2人いるより、悪い主人が1人だけの方がましである」と書きました[1]。「船頭多くして船山に上る」ともいいますが、2人以上の上司から矛盾する指示を与えられると、部下は困惑します。
また、リーダーは自分よりも下の階層で起こることには責任を負わなければなりません。部下が直属の上司を飛ばして、さらに上層の管理職とやりとりをしたり、上司の知らないところで他の部署のメンバーとやりとりをしてしまうと、直属の上司は「そんな話は聞いていない」ということになってしまいます。組織の秩序を保つうえで、「命令の統一」は重要なのです。
管理の幅と組織の形
リーダーは直属の部下については直接のやりとりで、それよりも下のメンバーについては直属の部下を介して間接的に掌握します。ヒエラルキーでは、直属の上司と部下のあいだの縦の(垂直的な)コミュニケーションが多くなるということです。
上司が部下を指導・監督するうえで問題になるのが「管理の幅」(span of control)です。「統制の範囲」と翻訳されることもあります。これは「1人の上司がもつ部下の数」のことです。
ファヨールは「責任者は一般に4人あるいは5人以上の直接の部下を持たない[2]」と書いています。当時は、それくらいの管理の幅がふつうだったのでしょう。現代のリーダーは、もっと多くの部下をもつ傾向にあります。
図17は、管理の幅と組織の形(階層数)の関係を表したものです。
- 図17 管理の幅と階層数
メンバー数は同じ15人ですが、管理の幅を2人と狭くしたのが図の左側です。そうすると階層数が多くなり、組織の形は「縦長」(tall)になります。
図の右側では管理の幅を広くして、部下全員(14人)を1人の上司の下に置きました。そうすると、組織の形は「フラット」(flat、平ら)になります。
管理の幅が狭い縦長の組織では、上司は少数の部下を細かく指導・監督できます。そうすると、部下の仕事のやり方まで上司が決めて、細かく口を出すような管理になりがちです。それは「集権」(centralized)のマネジメントになるということです。「多くの重要な意思決定について、権限が上層に集中している」ということです。縦長で集権というのが、官僚制の特徴です。
管理の幅が広いフラットな組織では、上司は多くの部下を抱えるので、一人ひとりに細かな指示を出すことはできません。そうすると、部下に自由裁量を与えて任せる「分権」(decentralized)のマネジメントになります。「多くの重要な意思決定について、権限が現場まで広く分散している」ということです。
[1] 引用部分は、以下の原著から私が翻訳しました。翻訳書も紹介しておきます。Drucker, Peter F., The Practice of Management, HarperCollins, 1954, p.525;P・F・ドラッカー著、上田惇生訳『新訳 現代の経営』(ダイヤモンド社、1996年)
[2] ファヨール著、佐々木恒男訳『産業ならびに一般の管理』(未来社、1972年)、p.99
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