前回と前々回は、参照点(reference point、基準になる比較対象)との対比
(contrast、相対的な違い)に惑わされる対比効果の話をしました。
今回は、その続きです。
ひとつ、思考実験にお付き合いください。
気になる海外ツアーがあって、ときどき値段をチェックしているとします。
あなたなら、次のAとB、どちらの状況をより「お得」に感じるでしょうか。
A:最初は20万円だったツアーが、16万円に値下げされていた。
B:最初は20万円だったツアーが、12万円に値下げされていた。そのときは申し込む時間がなく、しばらく後で見ると、今度は15万円になっていた。
同じツアーの値段がAでは16万円、Bでは15万円ですから、客観的にはBがお得に決まっています。
ところが多くの人は参照点への依存(Reference dependence)のために、Aがお得だと感じるのではないでしょうか。
Aでは、最初の20万円が参照点(基準になる比較対象)となり、16万円は「4万円の値下げ」と感じられそうです。
ところがBでは、いったん値下げされた12万円が参照点になり、15万円は「3万円の値上げ」のように感じられるのではないでしょうか。
もうひとつ、例を挙げましょう。
ネット・ショッピングをしていると、元の値段を赤線で消して、値下げしたことをアピールするような価格表示を見かけることがあります。
「お得だ!」と思って、つい買いたくなるのではないでしょうか。
そういう表示を二重価格表示といいますが、これはもしかすると、お店の策略かもしれません。
行動経済学者のセイラー(Richard H. Thaler、2017年にノーベル経済学賞)は、次のように書いています。
……売り手には、知覚される参照価格を操作して、「お買い得だ」と錯覚させるインセンティブが働く。何十年も使われてきた例が「希望小売価格」の表示である。これはほとんどが架空のもので、消費者を惑わせようとする売り手側の「希望参照価格」でしかない。(*1)
たとえば、初めから5000円で売られた商品について、元の価格が1万円だったと偽り、「今だけ半額、5000円!」とお客を騙すようなケースです。
そういう例は、近年の日本でも報道されています。(*2)
*1 リチャード・セイラー著、遠藤真美訳『行動経済学の逆襲』(早川書房、2016 年)、第 7 章「お得感とぼったくり感」
*2 INTERNET Watch「楽天、二重価格表示問題で謝罪会見~従業員 18 人が店舗に不当価格表示を提案」2014 年 4 月 25 日https://internet.watch.impress.co.jp/docs/news/646239.html
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