前々回は、「期待値が同じでも、私たちは状況によってリスク選好度(risk appetite)を変え、リスク回避(risk aversion)をしたり、リスク追求(risk seeking)をしたりする」という話をしました。
無限の時間(試行回数)や財力(リスク許容度)をもつ「神」のような存在だったら、期待値だけで損得を判断すればよいのかもしれません。
しかし私たち人間は、「破産」や「死」のリスクを考えなければなりません。
動物の世界では、利得を最大化するよりも、生きのびるほうが重要です。
無限の寿命(時間)をもつ「神」と、「死んだら終わり」の生物では、話が違うのです。
生きるのに十分な食物を得られそうな状況では、動物はリスクを回避して、安全な行動をとります。
確実に期待値くらいの食物を得れば、生きのびることができるからです。
しかし不要な賭けに出て、期待値を大きく下回る食物しか得られなければ、死んでしまうかもしれません。
得られる食物の期待値が、生存可能なレベルを下回るにつれて、動物はリスクを追求するようになります。
期待値どおりだと死んでしまうので、イチかバチか、起死回生のチャンスに賭けるのです。
人間もときとして、窮地に追い込まれると苦しまぎれの一発勝負に出るようです。
生物の世界では、一定以上の損失(捕食、怪我、飢餓など)は、死を意味します。
死ぬレベルの損失が10倍になっても100倍になっても、死という意味では同じです。
「窮鼠、猫を噛む」といいますが、動物の世界では、死を目前にしたらギャンブルに打って出るのが、むしろ「合理的」なのでしょう。
動物行動学の教科書には、次のように書かれています。
要するに動物は、特定の採餌方法からの収益速度の平均値に対してばかりでなく、その変動に対しても敏感であるべきだということである。動物が高い変動性を好むかどうかは、動物の必要程度(通常「状態(state)」と呼ばれている)と期待報酬の関係に依存して決まるはずである。もしエネルギー必要量が期待報酬の平均値よりも小さいならば、報酬量があまり変動しない選択肢を選ぶであろう(リスク回避的行動(risk-averse behaviour))。一方、もしエネルギー必要量がその平均値よりも大きいのならば、普通は報酬量がより変動する選択肢を選ぶであろう(リスク志向的(risk-prone behaviour))。
(*1)
*1 N・B・Davies、J・R・Krebs、S・A・West 著、野間口眞太郎・山岸哲・巌佐庸訳『デイビス・クレブス・ウェスト 行動生態学 原著第 4 版』(共立出版、2015 年)、p.70
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