ここ何回か、「主観的な感覚は、参照点(reference point、基準になる比較対象)との対比(contrast、相対的な違い)に影響されやすい」という対比効果(contrast effect)の話をしてきました。
今回は、人生観にもかかわるような対比効果の例を紹介しましょう。
読者のみなさんは、次のAとBの状況におかれたら、どちらの満足度が大きいでしょうか?
A:あなたの年収は800万円で、職場の同期たちの年収は1200万円です。
B:あなたの年収は600万円で、職場の同期たちの年収は400万円です。
これは、経済学者のフランク(Robert H. Frank)が挙げた例を、少しアレンジ
したものです。(*1)
客観的には、年収の絶対額が大きいAの方がよいに決まっています。
しかし多くの人は、Aでは憤懣やる方なく、Bでは優越感をもつのではないでしょうか。
ステータスを誇示する高級車のように、「他人との比較が効用(主観的な満足度)に大きく影響する商品」のことを、フランクは地位財(positional goods)と呼びました。
相対的な比較に惑わされることで、人も社会も不幸になると、フランクは考えます。
相対的な地位をめぐる意地の張り合いは、比喩的に「軍拡競争」(arms race)と呼ばれます。
ライバルが10万円の時計を買ったら自分も10万円、ライバルが100万円なら自分も100万円、と続けていくと、相対的な優劣は変わらないまま、お互いに出費がかさむばかりです。
一世を風靡する芸能人やスポーツ選手に憧れる人は多いでしょう。
しかし、そういう地位につける確率は、とても低いはずです。
どんなことでも、平均以上の人は2人に1人しかいません。
上位10%なら10人に1人、上位1%なら100人に1人です。
1000人に1人、10000人に1人といった地位につける確率は、1/1000、1/10000になります。
高い地位につくのが幸せともかぎりません。
払う犠牲が大きすぎて、トータルでは不幸な人生になるかもしれません。
フランクは、「他人との比較にあまり影響されず、それ自体に絶対的な価値がある商品」を非地位財(nonpositional goods)と呼びます。
家族や友人と楽しく過ごしたり、趣味を堪能するための消費は、これにあたるのでしょう。
フランクは、多くの人が地位をめぐる競争に心を奪われ、そこにお金やエネルギーを使い過ぎて、トータルでは不幸になると考えます。
本当に大切なものは何か、じっくりと考えたくなるような話ではないでしょうか。
*1 Frank, Robert H., Falling Behind: How Rising Inequality Harms the Middle Class, Univ of California Pr, 2013, pp.1-5
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