有名な社会心理学者のチャルディーニ(Robert B. Cialdini)は、次のように書いています。
ひとたび決定を下したり、ある立場を取ると、そのコミットメントと一貫した行動を取るように、個人的にも対人的にも圧力がかかります。そのような圧力によって、私たちは前の決定を正当化するように行動します。(*1)
「自分の考えや行動の、矛盾や葛藤を不快に感じる」という心理を認知の不協和(cognitive dissonance、認知的不協和)といいます。
イソップ童話に「キツネとブドウ」という話があります。
ある日、キツネが歩いていると、おいしそうなブドウが実っています。
キツネはジャンプをしてとろうとしますが、手が届きません。
「ブドウを食べたい」という願望と、「ブドウを食べられない」という現実。
そういう矛盾や葛藤、一貫性の欠如が、心理的な「不協和音」になるのです。
この「不協和」を解消するには、2つの方法があります。
「がんばってブドウをとる」か、「ブドウを食べない理由をつくる」かです。
童話のストーリーは、後者です。
あきらめたキツネは「どうせあのブドウはすっぱいんだ。食べなくてよかったのさ」と、捨てゼリフを吐いて去ります。
自分の考えを変えて「合理化」「正当化」することで、不協和を解消したのです。
そういう合理化は、必ずしも悪いことではないのかもしれません。
あらゆる挑戦に成功できる人はいないでしょう。
人生では、叶わぬ願望もたくさんあるはずです。
ときには、自分を納得させてあきらめる合理化も必要なのでしょう。
達成できない目標にいつまでも拘泥すると、「抑うつ」になるという研究もあります。
進化心理学者のネシー(Randolph M. Nesse)は、次のように書いています。
……地位を争う競争において負けを受け入れられなかった場合に、多くの抑うつエピソードが引き起こされることがわかった。彼らの考えでは、落ち込んだ気分は競争での敗北に対する正常な反応として発生する。そして、彼らがいみじくも「降伏の失敗」と名付けた状況──つまり、地位の獲得に向けて無駄な努力を続けてしまう状況に陥った場合に、正常な反応として抑うつが引き起こされる。英国人心理学者のポール・ギルバートとその共同研究者をはじめとする研究者らが、この考えをさらに発展させた。彼らは、大きなストレスがかかるさまざまなタイプのライフイベントを「地位の喪失」として捉えて観察を行った。そして多くの患者が、勝ち目のない地位争奪戦を諦めると回復することを明らかにした。(*2)
*1 ロバート・B・チャルディーニ著、社会行動研究会訳『影響力の武器 [ 第二版 ] ―なぜ、人は動かされるのか』(誠信書房、2007 年)、p.99
(Cialdini, Robert B., Influence: The Psychology of Persuasion(Revised Edition), HarperCollins, 2007)
*2 ランドルフ・M・ネシー著、加藤 智子訳『なぜ心はこんなに脆いのか: 不安や抑うつの進化心理学』草思社、2021年、ii 感情を感じる理由、6 落ち込んだ気分と、諦める力
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