(経営学者)佐藤 耕紀 のブログ

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「老後2000万円問題」にどう備える?(10)「分散」投資とは?

*投資について、ここでは私の考えを書いているだけで、読者におすすめするつもりはありません。投資の結果については責任をもてませんので、ご自身の判断と責任でお願いいたします。

 

前回は「長期・積立」投資の話をしました。

今回は「分散」投資について考えましょう。

『銃・病原菌・鉄』などの名著で知られる生物学者のダイアモンド(Jared M. Diamond)は、『昨日までの世界』という本で、次のようなエピソードを紹介しています。

 

ダイヤモンドはニューギニアで調査研究をしていたとき、たまたま現地人の知り合いが農作業をしているのを見かけます。

しかし、その場所は彼の村や他の畑から、1キロ以上は離れていました。

移動に時間がかかって、農作業や見回りが非効率になるのではないかと、ダイアモンドは不思議に思います。

ダイアモンドは最初、単にニューギニア人が愚かなのかと考えます。

しかし考察を重ねるうちに、ニューギニア人の行動が実は理にかなっていることに気づくのです。

作物の収穫量は年ごとの日照や降雨によって大きく変動し、予測もコントロールもできません。

ニューギニアの人々にとって重要なのは、ともかく生きのびることです。

耕作地を1箇所にまとめれば、効率よく作業ができて、順調な年には多くの収穫を得られるでしょう。

しかし、たとえ10年に1回でも畑が全滅すれば、一家そろって餓死するおそれがあります。

いろいろな場所に畑を分散させれば、非効率ではあっても、すべての畑が壊滅する可能性は低くなります。(*1)


このように「相関性の低い複数の分野に、資源や活動を分散させることで、全体の確率的な変動を平準化する」ことをリスク分散(risk diversification)といいます。

株式投資でも、1つの会社に全財産をつぎ込むと、その会社が倒産すれば、すべてを失うことになります。

多くの会社に少しづつ分散投資をすれば、いくつかの会社が不振でも、それを好調な会社がカバーして、全体としては平均的なリターンを得ることができます。

 

バフェットやマルキールが推奨する「インデックス・ファンド」には、幅広い銘柄に分散投資をするのと同じようなメリットがあります。

「インデックス」(index)というのは、「株価指数」のことです。

たとえば「S&P500」という指数は、米国を代表する500社の時価総額を加重平均したものです。

1941~43年の構成銘柄の時価総額を10とすると、現在の構成銘柄の時価総額がどれくらいになるかを表します。(*2)

投稿時のS&P500指数(2024年5月24日の終値)は5305ですから、この80年くらいで時価総額は530倍になったことになります。

S&P500に連動するインデックス・ファンドを買えば、少額の資金でも、この500社に分散投資をするような効果が得られるのです。

 

注意しなければならないのは、指数のなかで少数の銘柄の比重が大きくなったり、指数に含まれる多くの銘柄が同じような動きをすると、「分散」の効果は薄れるということです。

最近では「米国株の神7」(M7)と呼ばれるグーグル(アルファベット)、アップル、フェイスブック(メタ)、アマゾン、マイクロソフト、エヌビディア、テスラだけで「S&P500」時価総額の約3割を占め、これらの動きが指数全体に大きく影響するようになりました。

 

*1  ジャレド・ダイアモンド著、倉骨彰訳『昨日までの世界(下)文明の源流と人類の未来』(日本経済新聞出版、2013年)、第 8 章「食料を生産する場所を分散させる」

 

*2  SMBC日興証券

【米国株初心者向け】S&P500とは? ダウ平均との違いをわかりやすく解説│米国株式 気になるポイント│SMBC日興証券

 

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