正月休みに、沢木耕太郎さんの新刊『天路の旅人』を読みました。
期待に違わず、面白い本でした。
その第一章に、次のようなことが書かれていました。
……私は二十六歳のときの長い旅を『深夜特急』というタイトルの紀行文にまとめていた。以後、さまざまな機会に、その旅について訊ねられることになったが、自分でももどかしく感じるほど大した話ができないでいた。『深夜特急』を書き上げるまでは生々しく私の内部に存在していたあのときの旅が、本としてまとめられることによって希薄になってしまったような気がしてならなかった。西川も、『秘境西域八年の潜行』を書き上げてしまったことで、あの旅が体内から抜け出て、本の中にしか存在しなくなってしまっていたのかもしれない。
(沢木耕太郎著『天路の旅人』新潮社、2022年、p.29)
私も「書き終わったことについて興味が薄れる」ことがあるので、沢木さんの言うことはよくわかる気がします。
そういう現象は「ツァイガルニク効果」(Zeigarnik effect)に関係があるのかもしれません。
ツァイガルニク効果について、行動科学者のジーノ(Francesca Gino)らは次のように書いています。
心理学者ブルーマ・ツァイガルニクは、1927年に行った実験で、成人の被験者たちにビーズを糸に通したりパズルを解いたりする単純なタスクを与えた。ある時は途中で作業を邪魔して完了できなくし、またある時は完了を促した。その後、ツァイガルニクが被験者にどの作業を覚えているかを尋ねたところ、完了できなかったタスクのほうを2倍多く覚えていたという(人は邪魔された事柄への印象や記憶を強くするという、ツァイガルニク効果)。
(DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー「仕事の生産性と質を高めるために
「完了バイアス」を利用せよ」)
ツァイガルニクがその有名な研究を始めるきっかけになったのは、次のような出来事だったといいます。
ベルリン大学の心理学者、クルト・レヴィンはその日、リトアニア出身の留学生、ブルーマ・ツァイガルニクと一緒に次に研究するテーマを探していた。
カフェで話していると、ふたりのうちのどちらかが(どちらかは定かではない)、ウェイターが注文を書きとめないことに気がついた。すべて頭のなかにとどめているのだ。会計がすむまでは、追加注文があってもすべて頭のなかにつけ加えている。
ところが、会計がすむと、勘定書に含まれていた商品は何だったかと尋ねても、すっかり忘れてしまっていた。何一つ思いだせないのだ。会計が終わったとたん、ウェイターの頭のなかのチェックマークがはずされ、会計までのやりとりのすべてが記憶から消されてしまったかのようだった。
レヴィンとツァイガルニクには、それが短期記憶と呼ばれる領域で扱われる記憶でないことはわかっていた。短期記憶とは、その場で初めて見た電話番号などを記憶する領域のことである(ここで保持される時間は30秒前後と言われている)。ウェイターは、少なくとも30分は注文を覚えていた。
彼の頭のなかでは何が起きていたのか?
レヴィンとツァイガルニクは、一つの仮説を考案した。「完了していない仕事や目標は、完了したものよりも長く記憶に残るのではないか?」。……
(Diamond online「邪魔をされると目標達成しやすくなる 「ツァイガルニク効果」と目標の親密な関係」)
(次回へ続く)
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