「ものは言いよう」といいますが、実質的には同じことでも、言い方によって印象が大きく変わることがあります。
行動経済学者のカーネマン(Daniel Kahneman、2002年にノーベル経済学賞)は、「問題の提示のしかたが、考えや選好に不合理な影響をおよぼす」ことを「フレーミング効果」(framing effect)と呼びました。
「あなたが連想したことこそが、その文章の意味である」というのです。(*1)
私は若い頃に上司から、ある仕事を頼まれたことがあります。
その上司は「この仕事を佐藤さんに頼んで本当によかった。佐藤さんなら、○○のようなミスは絶対にしないはずだから」と言いました。
私は「信頼されている」と感じていい気持ちになり、その仕事を一生懸命やりました。
今にして思えば、その上司は本当は「○○のようなミスをしないように、気をつけてくださいね」と言いたかったのかもしれません。
それを「あなたは○○のようなミスをしそうだから、気をつけてください」と言えば、部下は「信頼されていないのか」と思って、モチベーションが下がるでしょう。
その上司はその後、大きな組織のトップを歴任されました。
優れたリーダーは、言い方、伝え方も上手なのだと思います。
商業施設などのトイレで「いつもきれいにお使いいただいて、ありがとうございます」という貼り紙を見ることがあります。
これも本当は「トイレを汚さないでください」と言いたいのかもしれませんが、相手に気持ちよく感じてもらう工夫なのでしょう。
ホテルの部屋のトイレではよく「ECO」(環境配慮)のロゴとともに、「森林資源を守るため、トイレット・ペーパーの使い切りにご協力ください」という貼り紙があります。
かつては新品のトイレット・ペーパーをセットしないと、ホスピタリティ(おもてなしの精神)にもとると思われたのかもしれません。
あるいは、単にホテル側の都合でコストを削減していると受け取られたのかもしれません。
これも書き方で、だいぶ印象が変わっているのではないでしょうか。
「マネをする」ということについても、かつては「パクリ」と言われたようなことが、「オマージュ」「リスペクト」「インスパイア」など、イメージのよい表現が使われるようになりました。
とくに女性は、お腹が空いていても「大盛りを注文するのは恥ずかしい」と思うことがあるようです。そこで女性客をターゲットとする「はなまるうどん」は、一計を案じました。
ライバルの「丸亀製麺」では当時、「並」290円、「大」390円、「得」490円というラインナップでした。
これに対して「はなまる」は、「小」290円、「中」390円、「大」490円と、うどんのネーミングを、ワンサイズ小さく感じるように変えました。
「丸亀」の「大」は375gでしたが、「はなまる」はこれよりも多い420gのうどんを「中」と名づけたのです。(*2)
*1 ダニエル・カーネマン著、村井章子訳『ファスト & スロー ( 下 ) あなたの意思はどのように決まるか?』(早川書房、2014 年)、第 34 章
*2 TBS「がっちりマンデー!!」2019 年 8 月 18 日、https://www.tbs.co.jp/gacchiri/archives/2019/0818.html
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