(経営学者)佐藤 耕紀 のブログ

経営学の紹介 & Coffee Break(写真、紀行、音楽など)

なぜ、マネをしてしまう? 「同調」「ヒューリスティック」

前回は、「模倣自殺」や「模倣犯罪」の話をしました。

私たちには「他人のマネをしたくなる」という心理的な「バイアス」(bias、傾向、クセ)があるのです。

社会心理学では「同調」(conformity)といいます。

アメリカなど個人主義の文化よりも、日本など集団主義の文化で「同調」が起こりやすいという研究があります。

また、男性より女性のほうが「同調」しやすいといわれます。(*1)

 

読者のみなさんも、道端に人だかりができて空を見上げていたら、「何かあるのかな?」と、思わず同じ方向を見てしまうのではないでしょうか。

有名な社会心理学者のミルグラム(Stanley Milgram)は、それを実験してみました。

見上げるサクラが1人だけだと、つられた人は約40%でした。

サクラが2、3人だと約60%、5人になると約80%がつられました。*2

 

同調するのは、人間だけではありません。

公園でハトを見ていると、1羽が飛び立つと、ほかのハトも一斉に飛び立ちます。

最初のハトが飛んだのには、何か理由があるのでしょう。

忍び寄るネコのような天敵を、いち早く見つけて逃げたのかもしれません。

自分には理由がわからなくても、とりあえず同調して飛び立つハトのほうが、生きのびる確率は高いでしょう。

だから、そういう行動が進化したのでしょう。

行動をマネすることで、他者が知っている(自分の知らない)情報を利用できるのです。

 

不慣れな状況で、他者の行動をマネするのは、それなりの確率でうまくいく「ヒューリスティック」(heuristic、経験則)でしょう。

ヒューリスティックは、「短時間で近似解を求める簡便法」「すばやく大まかな答えを出す経験則」です。

複数形で「ヒューリスティクス」(heuristics)ともいいます。

その語源は、ギリシャ語で「みつけた」「わかった」を意味する「ユーリカ」(eureka)だそうです。

「直感」「ひらめき」と言ってもよいのでしょう。

2017年にノーベル経済学賞を授与されたセイラー(Richard H. Thaler)は、次のように言います。

 

    人が意思決定に費やせる時間や知力には限界がある。そのため、何かを判断するときに、簡便な経験則、つまりヒューリスティクスに頼る。*3

 

*1  ロバート・B・チャルディーニ著、社会行動研究会訳『影響力の武器 [第二版] ― なぜ、人は動かされるのか』(誠信書房、2007 年)』p.26;

Bond, Rod and Peter B. Smith, "Culture and Conformity: A MetaAnalysis of Studies Using Asch's(1952b, 1956) Line Judgment Task," Psychological Bulletin, 119-1,1996, pp.111-137;

Cooper, H. M., "Statistically Combining Independent Studies: A Meta-analysis of Sex Differences in Conformity Research," Journal of Personality and Social Psychology, 37-1, 1979, pp.131-146

 

*2  Stanley, Milgram, Leonard Bickman and Lawrence Berkowitz, "Note on the Drawing Power of Crowds of Different Size," Journal of Personality and Social Psychology, 13-2, 1969, pp.79-82

 

*3  リチャード・セイラー著、遠藤真美訳『行動経済学の逆襲』(早川書房、2016 年)、第 3 章「黒板のおかしな行動リスト」

 

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