(経営学者)佐藤 耕紀 のブログ

経営学の紹介 & Coffee Break(写真、紀行、音楽など)

知らぬが仏? 「ウェルテル効果」

夏休みに訪れた美しい観光地で、写真のような看板を見ました。

 


「危険なので、ここから飛び込まないでください」という趣旨で、もちろん善意で設置したのでしょう。

ただ実際問題としては、「飛び込みを抑止する効果」と「飛び込みを誘発する効果」のどちらが大きいのか、ちょっと考えてしまいました。

ここを訪れる観光客のほとんどは「橋から川に飛び込もう」とは夢にも思っていないでしょう。

この看板を見て初めて「この橋から飛び込めるのか」と知り、やってみようと思う人が現れても不思議ではありません。

 

私がそんなことを考えたのは、社会心理学の「ウェルテル効果」(Werther effect)を知っていたからかもしれません。

有名な社会心理学者のチャルディーニ(Robert Cialdini)は、次のように書いています。

 

    偉大なドイツの文豪ゲーテは『若きウェルテルの悩み』と題する小説を出版しました。主人公ウェルテルの自殺を扱ったこの本は、驚異的な影響を及ぼしました。その本によって、ゲーテが一躍有名になったばかりでなく、ヨーロッパ中でウェルテルをまねた自殺が相次いだのです。影響がとてつもなく大きなものだったので、いくつかの国の当局者はこの本を発行禁止にしました。(*1)

 

著名人の自殺が報道されると、多くの「後追い自殺」「模倣自殺」が発生します。
だから現代の先進国では、自殺の報道にさまざまな規制がかかっています。(*2)

世の中には、いろいろなことで悩む人、苦しむ人が大勢いるでしょう。

そんなときに報道で「自殺」という手段を思い起こさせると、一定の確率で、それを実行する人も出てくるのです。

犯罪でも、ある事件が大きく報道されると、それを真似た犯罪(模倣犯)が増えることが知られています。(*3)

 

そんなことを考えていると「ドボン!」と大きな音がして、周りの観光客がどよめきました。

橋の下をのぞき込むと、飛び込んだ人が悠々と川岸へ泳いでいくところでした。

 

*1  ロバート・B・チャルディーニ著、社会行動研究会訳『影響力の武器 [第二版] ― なぜ、人は動かされるのか』(誠信書房、2007 年)、p.232

 

*2  厚生労働省「自殺報道の影響と取組に関する調査研究」(2014 年度)
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-12200000-Shakaiengokyokushougaihokenfukushibu/3_18.pdf


*3  ロバート・B・チャルディーニ著、社会行動研究会訳『影響力の武器 [第二版] ― なぜ、人は動かされるのか』(誠信書房、2007 年)、p.237-241

 

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