週末のCofee Breakです。
イスタンブールを散策する沢木さんは、やがて有名な「グランド・バザール」に行きあたります。
広い通りをブルー・モスクと反対の方角へぶらぶら歩いていくと、人が激しく行きかう広場に出た。その向こうには商店が密集した市場への通路がある。これがテヘランのバザールと並び称されるイスタンブールのグランド・バザールなのかもしれない。私は人の流れに従って中に入ってみることにした。
内部には細い通路が縦横に走っており、その両側に構えの小さな店が立ち並んでいた。暗いが眼はすぐ慣れた。特別な照明がされているわけではないが、天井の明かり取りから光が射してくるからだ。剥き出しの土のままの通路には、買物客や冷やかしの客ばかりでなく、大きな荷物を肩や頭に乗せた男たちが苦しげな息づかいをしながら行きかっている。その上に降り注ぐ天井からの光は、バザール内に舞い上がる埃をきらきらと輝かせている。
(沢木耕太郎著『深夜特急5 トルコ・ギリシャ・地中海』新潮文庫、2020年、第十三章「使者として トルコ」)
2017年に訪れた「グランド・バザール」。
どこまでも続く、迷路のような空間。
きらびやかな陳列に、目をひかれます。
沢木さんは、イスタンブールを大いに楽しんだようです。
ブルー・モスクの境内を出ると、その日によって気ままに道を変え、ヨーロッパ側の鉄道の最後の駅であるシルケジ駅まで坂を下っていく。いわゆるオリエント・エクスプレスの終着駅だ。
さらに、そこから海沿いに少し歩くとエミノニュのフェリー乗り場に着く。イスタンブールに着いた最初の夜、私がアジア側からヨーロッパ側に渡ってくる際に乗ったのはこのフェリーである。
私は二リラを払い、二十分おきに出ているハレム行きのフェリーに乗る。そして舳先に据えられたベンチに坐り、少しずつ変化していく景色を楽しむ。
イスタンブールはボスポラス海峡によってアジア側とヨーロッパ側とに分けられているが、そのヨーロッパ側のイスタンブールも金角湾によって新市街と旧市街に分かれている。この新市街と旧市街を結ぶのがガラタ橋であり、アジア側とヨーロッパ側を結んでいるのがボスポラス橋である。
桟橋を離れたフェリーは、ガラタ橋を背に、新市街の高台に立つ高級ホテルの建物やボスポラス橋を左手に、ブルー・モスクやアヤ・ソフィアを右手の丘に見ながら、弧を描くようにしてハレムに向かう。このフェリーも香港のスター・フェリーと同じく、イスタンブールに住む人の重要な足になっているように見える。しかし、乗客の多さにもかかわらず、やはりスター・フェリーの上と同じく、そしてブルー・モスクの中と同じく、この喧噪の渦巻くイスタンブールにあって珍しく静寂の支配する空間になっている。聞こえるのはコーランの朗唱替わりのエンジンの響きだけだ。
私は冷たい風に上着の襟を合わせる。そして、出前用の銀色の盆にのせてチャイを売りにきた男に一リラを払ってグラスを取る。日本にいる時は紅茶はプレーンでしか飲まなかったが、トルコでは砂糖の小さな塊を入れたチャイがおいしく感じられる。砂糖が入っても後味は意外にさっぱりしているのだ。
チャイを飲み終わる頃、アジア側の丘に建つモスクの姿が大きく見えるようになり、やがて十五分ほどの航海は終わる。
(沢木耕太郎著『深夜特急5 トルコ・ギリシャ・地中海』新潮文庫、2020年、第十三章「使者として トルコ」)
いつかまた訪れて、あの美しい景色を眺めたいものです。
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