前回まで3回にわたって「規模の経済性」の話をしました。
生産量が増えると費用が下がる背景には、「経験効果」(experience effect)もあります。
「学習効果」(learning effect)とも呼ばれます。
仕事で多くの経験を積むと、だんだんと熟練して、作業スピードや品質の向上、不良品の減少、資材の節約など、さまざまな面から効率がよくなります。
「累積生産量」(それまでの総生産量≒経験量)が2倍になるごとに、費用は一定の割合で(多くの仕事では20%くらい)減るといわれます。
たとえば、初めて自分の部屋を掃除するとしましょう。
掃除にも、いろいろなコツがあります。
たとえば、ホコリは引力で上から下へ落ちるので、掃除は上のほうからやるのが基本でしょう。
低い場所を終えてから高い場所を掃除すると、またもやホコリが落ちてきて、低いところをやりなおすハメになります。
お風呂で身体を洗うときも、多くの人は頭から始めて、だんだんと下へ降りていくのではないでしょうか。
また、これも引力によるものですが、汚れの多くは上を向いた面につき、垂直や下向きの面にはあまりつきません。
ほかにもいろいろな理由から、部屋のなかには汚れている場所と、ほとんど掃除する必要のない場所が混在します。
初心者は愚直にまんべんなく掃除するかもしれませんが、熟練者は要領よく手を抜いて、汚れている場所だけを掃除するでしょう。
掃除はひとつの例ですが、どんな仕事でも、最初は不慣れで失敗が多いでしょう。
試行錯誤を重ねるうちにいろいろなことを覚え、だんだんと要領よくできるようになるのではないでしょうか。
このように「経験から学習して、効率よくできるようになる」ことを「経験効果」(学習効果)というのです。
ここでは「掃除の経験回数が2倍になるごとに、所要時間が20%減る(以前の80%の時間でできるようになる)」としましょう。
1回目の掃除に250分かかったとすると、2回目は200分(250分×0.8)で、同じくらいきれいに掃除できるということです。
経験がさらに2倍になる4回目は、160分(200分×0.8)で掃除が終わります。
さらに2倍の8回目になると、128分(160分×0.8)と、最初の約半分の時間で掃除できることになります。
同じように計算すると、16回目には約102分、32回目には約82分となり、64回目には約66分と、最初の約1/4の時間で掃除ができるようになります。
この数値例をグラフにすると、下の図のようになります。
掃除の例では、横軸が経験回数、縦軸が所要時間です。
一般的には、横軸を生産量、縦軸をコストと考えればよいでしょう。
わかりやすく単純化しましたが、イメージとしてはそんなところでしょう。
「先行者優位」の背景には、「規模の経済性」や「経験効果」もあります。
いち早く事業を始めて、規模を拡大し、累積生産量を増やせば、後発のライバルよりも低コストで、優位に戦うことができるのです。
⇒ ブログの概要(トップ・ページ)はこちら。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「宣伝会議」さまの実践講座に登壇しました。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
◆ 「読者が選ぶビジネス書グランプリ2022」にノミネートされました。
◆ ライザップの瀬戸健社長が、『週刊文春』で書評をお書きくださいました(2021年10月28日号、p.121)。
単行本、聴く本(オーディオブック、Audible)、電子書籍(Kindle、Kobo、Kinoppy、honto、Doly)
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
今さらだけど、ちゃんと知っておきたい「マーケティング」【内容紹介】
◆ 「二子玉川 蔦屋家電」さまで、マーケティングの月間ランキング1位になりました(2022年5月、6月、9月)。
◆ 『日刊工業新聞』さまに書評が掲載されました(2022年2月7日)。
単行本、聴く本(オーディオブック、Audible)、電子書籍(Kindle、Kobo、Kinoppy、honto、Doly)
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
今さらだけど、ちゃんと知っておきたい「意思決定」【内容紹介】
◆ 『PRESIDENT』2023年2.17号の「職場の心理学」のコーナーで、「絶対に失敗が許されない人の「意思決定力」養成法」と題した著者の記事が掲載されました(p.106-109)。
単行本、聴く本(オーディオブック、Audible)、電子書籍(Kindle、Kobo、Kinoppy、honto、Doly)
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆