(経営学者)佐藤 耕紀 のブログ

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「規模の経済性」と「経験効果」(4)「経験効果」

前回まで3回にわたって「規模の経済性」の話をしました。

生産量が増えると費用が下がる背景には、「経験効果」(experience effect)もあります。

学習効果」(learning effect)とも呼ばれます。

 

仕事で多くの経験を積むと、だんだんと熟練して、作業スピードや品質の向上、不良品の減少、資材の節約など、さまざまな面から効率がよくなります。

「累積生産量」(それまでの総生産量≒経験量)が2倍になるごとに、費用は一定の割合で(多くの仕事では20%くらい)減るといわれます。

 

たとえば、初めて自分の部屋を掃除するとしましょう。

掃除にも、いろいろなコツがあります。

 

たとえば、ホコリは引力で上から下へ落ちるので、掃除は上のほうからやるのが基本でしょう。

低い場所を終えてから高い場所を掃除すると、またもやホコリが落ちてきて、低いところをやりなおすハメになります。

お風呂で身体を洗うときも、多くの人は頭から始めて、だんだんと下へ降りていくのではないでしょうか。

 

また、これも引力によるものですが、汚れの多くは上を向いた面につき、垂直や下向きの面にはあまりつきません。

ほかにもいろいろな理由から、部屋のなかには汚れている場所と、ほとんど掃除する必要のない場所が混在します。

初心者は愚直にまんべんなく掃除するかもしれませんが、熟練者は要領よく手を抜いて、汚れている場所だけを掃除するでしょう。

 

掃除はひとつの例ですが、どんな仕事でも、最初は不慣れで失敗が多いでしょう。

試行錯誤を重ねるうちにいろいろなことを覚え、だんだんと要領よくできるようになるのではないでしょうか。

このように「経験から学習して、効率よくできるようになる」ことを「経験効果」(学習効果)というのです。

 

ここでは「掃除の経験回数が2倍になるごとに、所要時間が20%減る(以前の80%の時間でできるようになる)」としましょう。

1回目の掃除に250分かかったとすると、2回目は200分(250分×0.8)で、同じくらいきれいに掃除できるということです。

経験がさらに2倍になる4回目は、160分(200分×0.8)で掃除が終わります。
さらに2倍の8回目になると、128分(160分×0.8)と、最初の約半分の時間で掃除できることになります。

同じように計算すると、16回目には約102分、32回目には約82分となり、64回目には約66分と、最初の約1/4の時間で掃除ができるようになります。

 

この数値例をグラフにすると、下の図のようになります。

掃除の例では、横軸が経験回数、縦軸が所要時間です。

一般的には、横軸を生産量、縦軸をコストと考えればよいでしょう。

わかりやすく単純化しましたが、イメージとしてはそんなところでしょう。

 

先行者優位」の背景には、「規模の経済性」や「経験効果」もあります。

いち早く事業を始めて、規模を拡大し、累積生産量を増やせば、後発のライバルよりも低コストで、優位に戦うことができるのです。

 

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