週末ではないのですが、GWのCofee Breakです。
いま販売されている新潮文庫の『深夜特急』は全6巻で、第1巻で香港とマカオ、第2巻ではマレー半島とシンガポールが描かれています。
続く第3巻ではインドとネパール、第4巻でシルクロード(パキスタン、アフガニスタン、イラン)が描かれるのですが、私は残念ながら南アジアや中東を旅したことはありません。
私の旅がふたたび『深夜特急』と交錯するのは、第5巻で沢木さんがボスポラス海峡を渡り、ヨーロッパに足を踏み入れるあたりからです。
……私はチャイをもらい、受け皿にのっている砂糖の小さな塊を二つ入れ、スプーンでよく掻きまぜた。そして、熱くなったグラスの口を親指と人差し指で持つと、船室を出てフェリーの舳先に廻った。
風は思いのほか冷たく、熱かったチャイのグラスもすぐに両手で包み込んで持てるようになった。
いま私はアジアからヨーロッパへ向かっている。春の初めにアジアの端の島国から出発した私は、秋の終わりにヨーロッパのとば口に差しかかろうとしている。この船でこのボスポラス海峡を渡り切れば、東ローマ帝国の都であったかつてのコンスタンチノープルに到着するのだ。
しかし、その重層的な歴史が塗り込められているはずの街は、夜の深い闇に覆われて何も見えない。対岸は、丘にでもなっているのだろうか、ところどころに点々と灯が見えるだけだ。その灯はいかにも心細げで、かえって丘の暗さを浮き立たせるばかりのように思えた。
〈あれがヨーロッパなのか……〉
私は体が冷えてくるのにもかかわらず、甲板に立ち尽くしたまま、しだいに近づいてくる暗い丘を見つめつづけた。
(沢木耕太郎著『深夜特急5 トルコ・ギリシャ・地中海』新潮文庫、2020年、第十三章「使者として トルコ」)
ヨーロッパ側へ渡った沢木さんは偶然、有名なブルー・モスクが真正面に見える宿に泊まります。
はっきりとはわかりませんが、描かれている内容からすると「イスタンブール地下宮殿」のあたり、ディヴァン・ヨル通りに面した場所かもしれません。
私は一階に降り、表に出てみて驚いた。バスや車が凄まじい勢いで排気ガスを撒き散らしている表通りの斜め向こうに、六本の尖塔を持った巨大なモスクの姿があったからだ。スルタン・アーメット・ジャミイ、ブルー・モスクに違いなかった。このような近くにありながら、昨夜まったく気がつかなかったのが不思議なくらいだった。夜は闇に溶け切っているのか、あるいはホテル以外は眼に入らないほど私が疲れ切っていたのか。
広場を挟んだ左手にも巨大で力強い建物があるのが見えた。壁が赤みを帯びているところからすると、かつてギリシャ正教の総本山だったというアヤ・ソフィアなのであろう。これも眼に入らなかったとは。私は自分を怪しみながらその二つの巨大な建築物をしばし茫然と眺めた。
どちらも壮大だった。イランのモスクの鮮やかな色彩は欠いているが、建造物としての複雑さがあり、灰色のどんよりした空の下で独特の輝き方をしていた。
(沢木耕太郎著『深夜特急5 トルコ・ギリシャ・地中海』新潮文庫、2020年、第十三章「使者として トルコ」)
2017年に訪れた「ブルー・モスク」の威容。
古い建物なのに、SF映画に出てきそうな未来感があります。
広場をはさんでブルー・モスクと対峙する「アヤ・ソフィア」(2017年)。
ブルー・モスクの内部(2017年)。
ため息が出るほど、美しい装飾です。
⇒「写真紀行」の記事一覧はこちら。
⇒ ブログの概要(トップ・ページ)はこちら。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「宣伝会議」さまの実践講座に登壇しました。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
◆ 「読者が選ぶビジネス書グランプリ2022」にノミネートされました。
◆ ライザップの瀬戸健社長が、『週刊文春』で書評をお書きくださいました(2021年10月28日号、p.121)。
単行本、聴く本(オーディオブック、Audible)、電子書籍(Kindle、Kobo、Kinoppy、honto、Doly)
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
今さらだけど、ちゃんと知っておきたい「マーケティング」【内容紹介】
◆ 「二子玉川 蔦屋家電」さまで、マーケティングの月間ランキング1位になりました(2022年5月、6月、9月)。
◆ 『日刊工業新聞』さまに書評が掲載されました(2022年2月7日)。
単行本、聴く本(オーディオブック、Audible)、電子書籍(Kindle、Kobo、Kinoppy、honto、Doly)
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
今さらだけど、ちゃんと知っておきたい「意思決定」【内容紹介】
◆ 『PRESIDENT』2023年2.17号の「職場の心理学」のコーナーで、「絶対に失敗が許されない人の「意思決定力」養成法」と題した著者の記事が掲載されました(p.106-109)。
単行本、聴く本(オーディオブック、Audible)、電子書籍(Kindle、Kobo、Kinoppy、honto、Doly)
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆