週末のCofee Breakです。
香港でのある日、沢木さんは高速フェリーに乗り、マカオを訪れます。
海は青く透き通ってはいなかった。ブルーではなくグリーン。それも彌敦道の宝石屋の店頭に飾られている翡翠のような重く沈んだ緑色だった。そのとろりとした質感のある水の上を、水中翼船が小きざみに震えながら快調に滑っていく。海はさらに緑を濃くしていくが、やがて不意に褐色の水に侵されはじめる。大陸の黄土を含んだ河の水が流れ込んでいるためなのだろう。たぶん陸が近づいてきたのだ。
香港を出てから一時間余り、辺り一面が泥の海と化し切った時、船はマカオに着く。
(沢木耕太郎著『深夜特急1 香港・マカオ』新潮社、2020年、第三章「賽の踊り マカオ」)
マカオの「水中翼船桟橋」に降り立った沢木さんは、遠くに見える「黄色い大きな建物」のあたりが街の中心だろうと当たりをつけて、そこへ向かいます。
大したことはないような気がしたが、黄色い建物までかなりの時間がかかった。着いてみると、そこはリスボアというホテルであり、裏手には葡京娯楽場と記された出入口があった。葡京娯楽場、つまりカジノ・リスボアというわけだ。いずれにしても私とは縁のなさそうなところだった。
(沢木耕太郎著『深夜特急1 香港・マカオ』新潮社、2020年、第三章「賽の踊り マカオ」)
2017年の「カジノ・リスボア」。
そこから沢木さんは、南西に見える丘へと向かいます。
道は再び海に沿って走り、右手には緑の多い静かな住宅街が見えはじめる。丘に向かって坂道を登っていくと、美しい洋館が眼に入ってくる。壁に淡いピンクや青や黄色、それに薄い草色などを用いた南欧風の家が到るところに建っているのだ。一瞬、東洋のはずれの半島から西洋のどこかの街に連れ去られてしまったのではないかと錯覚しそうになる。香港の雑居ビルと難民のバラックを見慣れた眼には、オトギバナシの世界に紛れ込んだような気さえする。振り返ると、坂道は海に向かって落下していくかのようだ。ポルトガルという国もこのようなところなのだろうか、坂道の多いと聞くリスボンという街も……。
(沢木耕太郎著『深夜特急1 香港・マカオ』新潮社、2020年、第三章「賽の踊り マカオ」)
丘の上に建つ「聖ローレンス教会」。
その翌日、沢木さんは大学時代にスペイン語の教師から聞いていた「聖パウロ学院教会」(聖パウロ天主堂跡)を訪れます。
マカオは、日本への生糸と日本からの銀で栄えた貿易基地だった。ところが、日本におけるキリスト教への圧力が強まるにつれて、日本との貿易が困難になっていく。東アジアにおけるイエズス会の伝道のための基地であり、マカオ市民の精神的な拠り所であった聖パウロ学院教会は、マカオの衰退と運命を共にするかのように焼失し、前の壁を一枚だけ残してすべてが潰え去ったという。
(沢木耕太郎著『深夜特急1 香港・マカオ』新潮社、2020年、第三章「賽の踊り マカオ」)
2017年の「聖パウロ天主堂跡」。
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