『和をもって日本となす』(ロバート・ホワイティング著、玉木正之訳、角川書店、1990年)
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「七」章では、「ブレイザー」というニックネームで呼ばれたアメリカ人監督のドン・ブラッシングゲームと、日本人との確執が描かれています。
ブラッシングゲームは1979年に、阪神タイガースの監督に就任しました。
ブラッシングゲームは、彼の持てるエネルギーと情熱のすべてを傾注して新しい仕事と取り組んだ。彼は、まず手はじめに春のキャンプの練習時間を他のチームの半分に切り詰め、シーズンがはじまってからの試合前の練習についても同様の措置をとった。「短時間のうちに効率よく練習をして、必要以上の長い練習から生じる疲労を避けるのが狙いだ」と、彼はいった。「日本人の選手たちは、持てる力のすべてを練習に注ぎ込もうとする。でも、それは疲れを増すだけで、試合での集中力を失わせる結果を招くにすぎない。とくにシーズン後半に、その悪影響が生じていると思う」
さらに彼は、バッターボックスに立った打者を細かいサインで縛らず、できるだけ自由に打たせようとした。また、先発投手をリリーフにも起用するような二刀流をやめ、それまで1日に3度くらい行われていたミーティングや打合せを、1週間に1度か2度行う程度に減らした。
しかし、ブレイザーの“省エネ穏健派的改革”は、すぐに「甘い」という批判の矢面に立たされることになった。日本には、チームを率いるためのそれなりのやり方――管理者としての<型>(kata=form)――というものがあり、それは基本的に、「猛練習」と「細かい指導」が必要不可欠なものとされている。そして批判の声をあげた者は、ブレイザーのやり方が“甘やかし”以外の何物でもなく、日本の監督の<型>から遠く離れた“型破り”なものであると主張したのだった。
もっとも、当然のことながらタイガースにいたふたりのアメリカ人選手は、この新監督の采配を心から歓迎した。それ以前の監督たちによる、古代アテネのドラコンの立法のような細かい規則から開放され、自分なりのプレイができるようになった彼らは、アメリカ流のやり方に満足した。が、日本人選手の多くは、まったく反対の反応を示した。そのなかで、たとえば主軸打者の掛布雅之は、試合前の練習が軽すぎるという不満を口にした。彼は、ウォームアップでもっと汗を流し、バッティング練習の時間ももっと増やしてほしいと訴えたのだ。
それに対して、ブレイザーは不本意ながらも同意することにした。「それは、わたしにはけっしていい考えだとは思えない。でも、ベースボールは肉体以上に精神的な面が大きく影響を及ぼすスポーツだから、選手自身がもっと練習が必要だと思い込んでいるなら、そうさせないといい結果が出せないだろう……」
結局、日本の野球選手は日本のサラリーマンとまったく変わらない――ということを、ブレイザーはつくづく思い知らされたのだった。
日本のサラリーマンが、その仕事の内容はさて措き、1日に10時間近くも会社で働いて、今日も一所懸命働いたぞ、という気分に浸ることが大切なのと同じように、プロ野球選手も、一定量の練習をこなして猛練習をやったというフィーリングを得ることが、けっこう重要なことになっているのだ。……
ブレイザー自身は、このような日本人の“哲学”を受け入れることができなかった。彼は、どれだけ長い時間を費やしたかということではなく、やはり、その質的な内容を重視した。(pp.229-231)
考え方は人それぞれですから、ブラッシングゲームに共感する人も、そうでない人もいるでしょう。
「長時間労働をやめて生産性を高めよう」という「働き方改革」の考え方は、アメリカ流でしょう。
読者のみなさんは、いかがでしょうか。
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