(経営学者)佐藤 耕紀 のブログ

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「老後2000万円問題」にどう備える?(5)「現金」や「預金」が安全だと思うのは錯覚?

*投資について、ここでは私の考えを書いているだけで、読者におすすめするつもりはありません。投資の結果については責任をもてませんので、ご自身の判断と責任でお願いいたします。

 

前回は、米国の家計は資産の半分以上を「投資信託」「株式等」(「現金・預金」は約13%)で持つのに対し、日本では半分以上が「現金・預金」(「投資信託」「株式等」は約15%)だという話をしました。

株式投資には元本割れのリスクがありますから、安全・安心を好む日本人はこれを避けるのかもしれません。

 

しかし、預金にもまた別のリスクがあります。

石油ショックの影響で「狂乱物価」と呼ばれた1974年は、消費者物価の上昇率が約23%でした。

仮にこの上昇率が3年ちょっと続くと、物価は2倍になります。

物価が2倍になるということは、長年苦労して貯めたお金の価値(購買力、モノを買う力、purchasing power)が半分になるということです。

利息がほとんどつかない現状では、わずかなインフレでも、預金の実質的な価値は目減りしていきます。

 

最近の日本では、消費者物価の上昇率(前年同月比)が3%前後で推移しているようです。(*1)

人々の実感としては、これより5%ポイントほど高い上昇率になるといわれます。

半年ほど前の記事ですが、「第一生命経済研究所」(熊野英生さん)のレポートでは、次のように書かれています。

 

物価の体感温度が前年比8.0%にもなると言えば、驚くかもしれない。政府がみている消費者物価の前年比は、

   総合指数 →3.2%
   除く生鮮食品 →3.1%
   除く食品・エネルギー →4.3%

となっている(2023年8月)。これらのデータは、私たちがスーパーなどに出向いて感じる体感物価よりも遙かに低いという印象を抱く。スーパーの入り口には、生鮮食品が陳列されている。その上昇率は、2023年8月は5.3%である。食料品全体では、同8.6%にもなる。食料品価格の前年比は、2023年1~8月にかけて7~8%台で推移してきた。おそらく、スーパーなどで食事の用意をしようとする人の体感物価は、7~8%ではなかろうか。

実は、総務省「消費者物価」にも、体感物価に近い指標がある。購入頻度別の消費者物価である。この中で、頻繁に購入する品目の前年比は、2023年に入って上昇し続けていて、8月は前年比8.0%にもなっている(図表1)。この購入頻度が高い品目の物価上昇こそが体感物価に近いのだろう。統計データのヘッドラインとして示される3%台の物価上昇率が、実感とずれていく理由は、総合指数と購入頻度の高い品目とのズレにあると考えられる。(*2)

 

仮にですが、8%という物価上昇率が続くと、約9年で物価は2倍になります。

10年足らずで現金・預金の価値が半分になるような事態は、現実的にありえない話でもないのです。

 

前々回お話ししたように、米国の約200年のデータでは、預金の実質価値はインフレに負けて、大幅に(購買力が6/100に)目減りしています。

現金・預金は「名目」では金額が減らないので「元本割れ」しないと思われがちですが、「実質」の購買力でいえば、長期的に大幅な「元本割れ」を起こしているのです。


インフレに強い資産は、モノでしょう。

たとえばお金を土地に替えてある人は、インフレになれば土地の値段も上がるので、資産の実質価値が大幅に目減りする可能性は低いでしょう。

ただし土地のようなモノには、いつでも好きなときに換金できる「流動性」(liquidity)はありません。

金(きん)もモノですし、株式も(上記の米国のデータでは)長期的にインフレに勝っていますが、これらには価格変動のリスクがあります。

日本のインフレや円安(日本円の実質価値の下落)に備えて、資産の一部を(ドルなどの)外貨で持つという考え方もあります。

しかし、そうすると今度は為替相場の変動といったリスクが発生します。

どんな資産にも一長一短があるので、リスクを分散させるには、いろいろな形でバランスよく持つのがよいのでしょう。

 

前回・前々回とお話ししたように、長期的・平均的に最も高いリターンをもたらすのは(米国株などへの)株式投資でしょう。

しかし、株式投資はハイリスク・ハイリターンで、短期的にはリスクが大きいのも事実です。

人それぞれの年齢(投資できる期間)やリスク許容度に応じて、いろいろな資産を組み合わせるのが現実的なのでしょう。

 

*1  総務省「2020年基準 消費者物価指数 全国 2024年(令和6年)2月分」2024年3月22日

https://www.stat.go.jp/data/cpi/sokuhou/tsuki/pdf/zenkoku.pdf

 

*2  第一生命経済研究所「物価の体感温度はもっと熱くなっている  ~消費者物価は実感と乖離する~」2023年10月13日

https://www.dlri.co.jp/report/macro/282939.html

 

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