今日(2023年10月9日)発表された2023年のノーベル経済学賞は、ハーバード大学の女性研究者、ゴールディン(Claudia Goldin)教授に授与されました。
日本経済新聞には「ノーベル賞にゴールディン氏 男女の賃金格差、要因解明」という見出しが踊りました。
なお、日経新聞は「クラウディア・ゴールディン」と、名前をイタリア語読みで表記していますが、「クローディア」と英語読みで表記するメディアも多いようです(ゴールディン氏はニュー・ヨーク生まれだそうです)。
名字は「ゴルディン」と表記されることもあります。
今回はゴールディン氏の有名な研究にちなんで、「ステレオタイプ」(stereotype、固定観念)の話をしましょう。
「ステレオタイプ」は、私たちがこれまでの経験や情報から思い浮かべる、「ある特徴をもつ人々についての典型的なイメージ」です。
たとえば「日本人は勤勉で真面目」「ラテン系は陽気で情熱的」といったものです。
そうしたイメージは、平均像としては、それなりに正しいこともあります。
ほかに情報がないのなら、ひとまずステレオタイプで判断するのは合理的かもしれません。
しかし、ステレオタイプが偏見を生み、人々に苦痛を与えたり、社会的な損失をもたらすこともあります。
誤解によって、実態とは異なるイメージが流布することもあるでしょう。
平均像としては正しくても、個人差が大きいということもあります。
ジャーナリストのサイド(Matthew P. Syed)は『多様性の科学』という本のなかで、ゴールディンらの研究を次のように紹介しています。
無意識のバイアスは、自分では気づかないうちに持っている偏見や固定観念だ。世の中には、才能ある人々が、人種や性別に関する無意識のバイアスによって理不尽にチャンスを奪われるケースが多々ある。
一番わかりやすいのは1970年代のオーケストラの例だろう。この時代、アメリカ(に限らず各国)のオーケストラは団員のほとんどが男性だった。入団審査をする側が「一般的に見て、男性のほうが演奏がうまい」と思い「実力主義による採用」だと主張していた。
しかしハーバード大学の経済学者クラウディア・ゴルディンと、プリンストン大学の労働経済学者セシリア・ラウズが妙案を出した。演奏者をカーテンで仕切ってオーディションをしてみてはどうか? そうすれば審査員には音だけが聞こえて、演奏者の性別はわからない。実際にやってみると、女性演奏者の1次審査通過率は1.5倍に上がり、最終審査通過率は4倍にも達した。それ以降、主要なオーケストラにおける女性演奏者の割合は5~40%近くにまで増えている。(*2)
補足しておきますが、引用文の最後で「女性演奏者の割合は5~40%近くにまで増えている」とあるのは、「かつて5%だったのが、その後40%近くにまで増えた」という意味です。
*1 日本経済新聞「ノーベル賞にゴールディン氏 男女の賃金格差、要因解明」2023年10月9日
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCD091ZV0Z01C23A0000000/
*2 マシュー・サイド著『多様性の科学 画一的で凋落する組織、複数の視点で問題を解決する組織』(ディスカヴァー・トゥエンティワン、2021 年)、第 7 章 IV「日常に多様性を取り込むための3つのこと」;
Goldin, Claudia and Cecilia Rouse, "Orchestrating Impartiality: The Impact of "Blind" Auditions on Female Musicians," American Economic Review, 90-4, 2000, pp.715-741
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