前回の続きです。
「内容を事前に一切明かさない」という宣伝手法がうまくいく背景には、「希少性」(scarcity)を求める人間心理もあるのかもしれません。
私たちは、希少なもの、珍しいものに心をひかれます。
たとえば、不良品はふつう価値が低くなるものです。
しかし、切手やコインの収集家のあいだでは、製造工程のミスでできた不良品が、希少価値のために珍重されて、高値で取引されます。
バーゲン・セールで押し合いへし合いしながら、われ先に商品へ殺到する人々を、テレビのニュースで見ることがあります。
数の限られたものをめぐって他人と争うとき、私たちは異常なまでの競争心にかられるようです。
「品薄商法」(hunger marketing、飢餓商法)と呼ばれる販売手法もあります。
「数量限定」「期間限定」「地域限定」など、希少性を演出して売上を増やそうとするものです。
2021年に、アサヒビールの「アサヒスーパードライ 生ジョッキ缶」と「アサヒ生ビール」缶が、相次いで販売休止になりました。
アサヒは「販売が想定を上回り、生産が追いつかない」と発表しましたが、「品薄商法ではないか」との声も上がりました。(*1)
意図的な品薄商法かどうかはともかく、次のような販売促進の効果は考えられます。
まず、販売休止のニュースが大きく報道されたので、かなり大きな「露出」(多くの人に知られる)という効果があります。
また「そんなに売れているのなら自分も買ってみようか」という「同調」(多くの人がすることをマネしたくなる)という効果もあるでしょう。
さらに「在庫があるうちに急いでスーパーへ行って買おう」と「希少性」を演出する効果もあるのではないでしょうか。
不動産仲介の営業担当者は、物件の購入を迷っているお客に「実は他のお客さんもこの家を気に入られまして、まもなく契約のお話をすることになっております」といった架空の情報を流すことがあります。
希少な物件をめぐる競争を演出して、早く契約のハンコをもらおうとするのです。
営業担当者はよく「今すぐにお決めくだされば、特別にこのお値段で提供いたします」といった提案もします。
これも「今しかチャンスがない」という希少性を演出してお客を焦らせ、早く契約してもらうための営業トークでしょう。
あえて情報を出さないマーケティングには、「希少性」を演出して、人々の飢餓感をあおる効果もあるのかもしれません。
*1
毎日新聞「新商品売れすぎで出荷休止「品薄商法」か?」2021 年 6 月 30 日
日本経済新聞「アサヒ、「マルエフ」缶を一時休売再発売は未定」2021年9月17日
⇒ ブログの概要(トップ・ページ)はこちら。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「宣伝会議」さまの実践講座に登壇しました。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
◆ 「読者が選ぶビジネス書グランプリ2022」にノミネートされました。
◆ ライザップの瀬戸健社長が、『週刊文春』で書評をお書きくださいました(2021年10月28日号、p.121)。
単行本、聴く本(オーディオブック、Audible)、電子書籍(Kindle、Kobo、Kinoppy、honto、Doly)
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
今さらだけど、ちゃんと知っておきたい「マーケティング」【内容紹介】
◆ 「二子玉川 蔦屋家電」さまで、マーケティングの月間ランキング1位になりました(2022年5月、6月、9月)。
◆ 『日刊工業新聞』さまに書評が掲載されました(2022年2月7日)。
単行本、聴く本(オーディオブック、Audible)、電子書籍(Kindle、Kobo、Kinoppy、honto、Doly)
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
今さらだけど、ちゃんと知っておきたい「意思決定」【内容紹介】
◆ 『PRESIDENT』2023年2.17号の「職場の心理学」のコーナーで、「絶対に失敗が許されない人の「意思決定力」養成法」と題した著者の記事が掲載されました(p.106-109)。
単行本、聴く本(オーディオブック、Audible)、電子書籍(Kindle、Kobo、Kinoppy、honto、Doly)
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆