週末のCofee Breakです。
ローマを出発した沢木さんは、フィレンツェへと向かいます。
私は残念ながらフィレンツェを訪れたことがありませんが、沢木さんの美しい描写を読めば、誰もが行きたくなるのではないでしょうか。
街の佇まいといえば、日暮れ時にジオットの塔の上やミケランジェロ広場から眺めるフィレンツェも美しかった。フィレンツェは街の建物のほとんどすべての屋根が赤瓦で覆われている。それを夕陽がさらに赤く染めるのだ。
夜のフィレンツェはアルノ河のほとりがよかった。霧の深い夜、河沿いの道を歩いていると、向こうにあるはずの橋が見えない。それでも歩いていくと、ようやく霧の中から白い灯とともに橋の欄干が見えてくる。その淡い光の中に、橋を渡る人の姿が、浮かんでは、また消えていく。それはまるで影絵芝居を見ているような実に夢幻的な光景だった。
(沢木耕太郎著『深夜特急6 南ヨーロッパ・ロンドン』新潮文庫、2020年、第十六章「ローマの休日 南ヨーロッパI」)
沢木さんは、フィレンツェの次にヴェネツィアへ行くつもりでした。
が、地図を見るうちに、モンテ・カルロでもう一度カジノに挑戦しようという思いが頭をもたげます。
そこで予定を変えて、ピサやジェノヴァなど地中海沿いの街を経由し、モナコへと向かうルートを進みます。
沢木さんが結局は行かなかった、ヴェネツィアの街(2018年に撮影)。
沢木さんがモナコへ向かう前に一泊した、ジェノヴァの街並み(2017年に撮影)。
サンタ・マルゲリータ・リグレからサン・レモに至る一帯は、フランスのリヴィエラと海岸線が同じところから、イタリアン・リヴィエラと呼ばれるリゾート地になっている。そして、イタリアとフランスの国境を越えてモナコに入ると、そこからがフレンチ・リヴィエラの始まりだ。
モナコへ向かうバスはリヴィエラの海岸線に沿った細い道を走る。その左手に見える地中海は美しかった。しかし、この程度の海はいくらでも見てきたのだと思うことにして、私は自分の心に感動することを許さなかった。こんな人工的な観光地に感動するとは何事だ、と無理に自分の心を押さえ込んでいた。
赤く大きな夕陽がゆっくりと地中海に沈みかかった時も、まだこんなもので感動してはいられないと思っていた。太陽が沈み切ると、半月が上りはじめた。少し心はざわついたが、まだまだだと思っていた。しかし、その月が藍色の空にしだいに鮮やかさを増すにつれ、ついにギブ・アップしそうになった。月の光が海面に反射してキラキラと輝いている。そんなものはどこの海でも見たはずなのに、なぜかこのような美しい月の光は見たことがないという気がしてきた。参ったな、と思った。これは文句なく美しい。しかし、私は痩せ我慢をするようなつもりで、まだまだ、まだまだ、と思っていた。
(沢木耕太郎著『深夜特急6 南ヨーロッパ・ロンドン』新潮文庫、2020年、第十六章「ローマの休日 南ヨーロッパI」)
イタリアン・リヴィエラの入り口、サンタ・マルゲリータ・リグレの海岸(2017年に撮影)。
地中海の日没と月(2017年に撮影)。
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