『選択の科学 コロンビア大学ビジネススクール特別講義』(シーナ・アイエンガー著、櫻井祐子訳、文藝春秋、2014年)
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今回からは『選択の科学』という本を通じて、日米の文化の違いを考えましょう。
著者のアイエンガー(Sheena S. Iyengar)は、コロンビア大学で活躍する社会心理学者です。
アイエンガーはまず、京都での忘れがたい体験を紹介します。
そこから、個人主義のアメリカと、集団主義の日本についての考察が始まります。
1995年、わたしは日本の京都で数ヶ月を過ごした。文化・社会心理学分野の草分け的存在である、北山忍氏のもとで博士論文のための調査をしていたのだが、その間、地元のある家族の家にホームステイすることになった。文化の違いや、行き違いさえ経験するだろうとは思っていたが、それはまったく思いがけない時に持ち上がることが多かった。中でも一番驚かされたのは、あるレストランで、砂糖入りの緑茶を注文したときのことだったかもしれない。
ウェイターはぎょっとして一呼吸おくと、緑茶に砂糖は入れないのです、と丁重に説明した。わたしは、ええその習慣は知っているけれど、わたしはお茶を甘くして飲むのが好きなんです、と返した。しかし、同じ説明が、さらに丁重に繰り返されただけだった。緑茶は砂糖を入れて飲むものではありません。そこでわたしは、日本では緑茶に砂糖を入れないのは承知しているけれど、それでも自分が飲む緑茶には、砂糖を入れたいんです、と説明した。こういなされたウェイターは、店長のところに相談に行き、2人は長い間ひそひそと話し合っていた。とうとう店長がやって来て、こう言った。「お客様、申し訳ありませんが、砂糖を切らしておりまして」。自分の好きな方法で緑茶を飲めないことを悟ったわたしは、仕方なくコーヒーに注文を変えた。コーヒーはすぐに運ばれてきた。そしてコーヒー皿に鎮座ましましていたのは、2つの砂糖袋だった。
この「甘い緑茶作戦」の失敗は笑い話だが、それは選択に対する考え方が、文化によって違うことを、端的に表すできごとでもあった。アメリカ人からすれば、金を払う客がこうしたいと言っているのだから、その要求はかなえられて当然、ということになる。だが日本人にしてみれば、わたしが緑茶を飲もうとしていた方法は、一般に認められた文化基準からいって、ひどく不適切だった。ウェイターはわたしが恐ろしい不作法をおかさないよう、気を遣ってくれただけなのだ。だがこの状況を掘り下げると、ものごとの本質が見えてくる。日米の文化を比較すれば、家庭生活、職場、また潜在的に日常生活のあらゆる側面に、これと同じような個人的選択や社会による影響のパターンが認められるのだ。この2つの文化には、いやどんな文化の間にも、さまざまな違いがあるが、選択に対する考え方や、選択が実際に行われている方法の地域差を理解する手段として、ある文化的特性を通して比較することが、特に有効だと認められている。それは、個人主義と集団主義の度合いだ。(pp.64-66)
なお、このエピソードはTEDのプレゼンテーションでも紹介されていて、会場では大きな笑いが起こっています。
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