著書を読んでくださった方から、よく「わかりやすい」と言っていただきます。
社交辞令もあるのでしょうし、他に褒めるところがないのかもしれませんが、「わかりやすさ」にこだわって書いたのはたしかです。
今回は、「わかりやすい文章」ということについて考えてみましょう。
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わかりやすいニュース解説で知られる池上彰さんと、読売新聞の1面コラム「編集手帳」を15年にわたって担当した竹内政明さんが、対談形式で文章術を語った『書く力』[1]という本があります。
この本の第四章では、江國滋さんのエッセー[2]から、次の一節が紹介されています。
悪文のうまい、というのは妙な表現だが、よくまあこれだけの悪文を書けるもんだ、と感心するような文章を、平気で書き綴ってやまない職業人がいることは事実であって、私の目には、悪文がうまい、とうつる。
一に裁判官、二に学者、三に新聞記者。
学者がわかりにくい文章を書きがちだということには、残念ながら同感せざるを得ません。
ではなぜ、わかりにくい文章になるのでしょうか。
『書く力』の第二章には、次のようなくだりがあります。
竹内 ……「伝わらない」文章というのはだいたいにおいて、自分でもよくわかっていないことを、自分でもよくわかっていない言葉で書こうとするときにできてしまうものだと思うんですよ。だから、わかっていないことについては書きたくないし、よくわからない言葉は使いたくないんです。
池上 ……「わかりにくい文章を書いている人は、その物事についてよくわかっていない」と考えています。自分でも内容を十分に理解できていないから、文章が整理できない。結果として、読者にとってもわかりにくい文章になっているんだと思うんですね。
資料として経済の専門書を読んだりすると、もうどこからツッコめばいいのかわからないくらいに文章が崩壊している本に当たることがあります。……「読んでも意味がわからない」のは、書いてある単語を知らなかったり、読解力がなかったりして、読者が悪いということよりも、そもそも文章が整理されていないからなんです。だから、こういう本を書いてしまうのは、その専門家が自分の研究分野について、実はまだしっかりと理解ができていないんだろうなと、私は考えています。……
このあたりは、私も以前から思っていたことで、「我が意を得たり」と感じました。
文章術どうこうの以前に、まずは「よくわかっていることを書く」「ちゃんと理解してから書く」ということが大切なのでしょう。
文章術について、私が最近読んだものでは『「文章術のベストセラー100冊」のポイントを1冊にまとめてみた。』(藤吉豊・小川真理子著、日経BP、2021年)という本がおすすめです。
文章術だけの本ではありませんが、村上春樹さんの『職業としての小説家』(新潮社、2016年)も、私自身はとても面白く読みました。
[1] 池上彰・竹内政明著『書く力 私たちはこうして文章を磨いた』(朝日新聞出版、2017年)
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