週末のCofee Breakです。
ローマに着いた沢木さんは、「テルミニ駅」(Stazione di Roma Termini)の近くでバスを降ります。
バスを降りた共和国広場から、通行人に教えてもらった方向に歩いていく。
確かに夜遅い時間ではあったが、通りを走る車のライトと洒落たデザインの街灯とで、遺跡とモニュメントと建築とが混然と一体になったようなローマの街並ははっきりと見ることができた。美しいロータリーがあり、その中央に泉がある。左右対称の堅牢な教会の横には、古代ローマ時代のものと思われる壁が剝き出しになっている。石造りの古い建物の窓からは、カーテンの向こうにあるだろう団欒を想像させる柔らかい光が洩れてくる。だが、そこを歩いている私には、すべてがまるで映画のセットの中にいるような現実感のなさだった。
(沢木耕太郎著『深夜特急6 南ヨーロッパ・ロンドン』新潮文庫、2020年、第十六章「ローマの休日 南ヨーロッパI」)
「共和国広場」(Piazza della Repubblica)のロータリーにある泉は「ナイアディの泉」(Fontana delle Naiadi)、教会はミケランジェロが設計した「サンタ・マリア・デランジェリ・エ・デイ・マルティーリ聖堂」(Santa Maria degli Angeli e dei Martiri)、古代ローマ時代の壁は「テルマエ・ロマエ」(Thermae Romae、ローマの浴場)のひとつといえる「ディオクレティアヌスの浴場跡」(Terme di Diocleziano)でしょう。
今はその近くに「レプッブリカ」(Repubblica)という地下鉄の駅がありますが、開業は1980年のようで、沢木さんが訪れた当時はなかったはずです(『深夜特急』の旅は1974~75年)。
沢木さんはそのあたりに宿をとり、翌日ローマを散策します。
足は昨夜到着した共和国広場に向く。そのロータリーを大きく廻り込むようにして通過し、そのまま歩いていくとゆるい坂道を下ることになる。広い通りの両側にはブティックや航空会社の看板が目立つ。
坂を下り切ると、何本もの通りが交錯する広場に出る。地下鉄の駅があり、その入口にはバルベリーニと記されている。広場の泉では、法螺貝を口にした半人半魚の海神が天に向かって水を吹き上げている。そこを右に折れ、細い通りを進んでいくと、小物やアクセサリーを売る店が軒を連ねるようになる。さらに歩き、ホテルと教会が並んでいる一角に出ると、急に明るさを感じるようになる。高台になっており、そのバルコニーからはローマの街が見渡せるようになっているのだ。
教会の前には下の広場へ続く階段がある。踊り場から左右に別れた階段は中央でひとつになって下っている。その階段には、朝だというのに、しかも冬の朝だというのに、ヒッピー風の若者が何組も坐っていた。彼らのあいだをすり抜けるようにして降り、振り返って見上げると、その階段の様子にどことなく見覚えがあるような気がする。どうしてだろう。近くに標識を探して読むと、ピアッツァ・ディ・スパーニャとある。ここがスペイン広場ということは、なるほど、これがあのスペイン階段だったのだ。
少年時代の私がとりわけ好きだった映画に『ローマの休日』がある。オードリー・ヘップバーンのアン王女に、少年時代の私はなかば恋していたのではないかと思う。深夜、ローマ訪問中の宿舎を抜け出したアン王女は、偶然知り合ったグレゴリー・ペックの部屋に泊めてもらい、僅かな金を借りてローマの街に出ていく。そして、ばっさりとロング・ヘアーを切ったあとで来るのが、このスペイン階段なのだ。ここでアン王女が幸せそうにアイスクリームをなめているシーンは、『ローマの休日』という映画を象徴するシーンとしてばかりでなく、ひとりの女優の生涯で最高の瞬間をとらえたシーンとしても印象深いものだった。
(沢木耕太郎著『深夜特急6 南ヨーロッパ・ロンドン』新潮文庫、2020年、第十六章「ローマの休日 南ヨーロッパI」)
沢木さんは共和国広場から少し北西へ進み、「バルベリーニ通り」を南西に下って「バルベリーニ広場」(Piazza Barberini)に出たようです。
「広場の泉」というのはバロックの巨匠・ベルニーニによる「トリトーネの噴水」(Fontana del Tritone)、「半人半魚の海神」はトリトーネ(トリトン)でしょう。
そこにある地下鉄「バルベリーニ駅」は1980年に開業したようで、だとすると『深夜特急』の当時はなかったはずですが、沢木さんはたしかに「地下鉄の駅があり」と書いています。
そこから沢木さんは「システィナ通り」を北西に歩き、「トリニタ・デイ・モンティ広場」(Piazza della Trinita dei Monti)に出たようです。
そこにある教会は「トリニタ・デイ・モンティ教会」でしょう。
沢木さんはそこから「スペイン階段」(Scalinata di Trinità dei Monti)を降り、「スペイン広場」(Piazza di Spagna)に出ます。
2017年に訪れた「スペイン広場」。
「スペイン階段」の上に見えるのが「トリニタ・デイ・モンティ教会」。
手前の泉は「バルカッチャの噴水」(Fontana della Barcaccia)。
⇒「写真紀行」の記事一覧はこちら。
⇒ ブログの概要(トップ・ページ)はこちら。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「宣伝会議」さまの実践講座に登壇しました。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
◆ 「読者が選ぶビジネス書グランプリ2022」にノミネートされました。
◆ ライザップの瀬戸健社長が、『週刊文春』で書評をお書きくださいました(2021年10月28日号、p.121)。
単行本、聴く本(オーディオブック、Audible)、電子書籍(Kindle、Kobo、Kinoppy、honto、Doly)
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
今さらだけど、ちゃんと知っておきたい「マーケティング」【内容紹介】
◆ 「二子玉川 蔦屋家電」さまで、マーケティングの月間ランキング1位になりました(2022年5月、6月、9月)。
◆ 『日刊工業新聞』さまに書評が掲載されました(2022年2月7日)。
単行本、聴く本(オーディオブック、Audible)、電子書籍(Kindle、Kobo、Kinoppy、honto、Doly)
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
今さらだけど、ちゃんと知っておきたい「意思決定」【内容紹介】
◆ 『PRESIDENT』2023年2.17号の「職場の心理学」のコーナーで、「絶対に失敗が許されない人の「意思決定力」養成法」と題した著者の記事が掲載されました(p.106-109)。
単行本、聴く本(オーディオブック、Audible)、電子書籍(Kindle、Kobo、Kinoppy、honto、Doly)
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆