(経営学者)佐藤 耕紀 のブログ

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新著の内容紹介(5)なぜ、プーチンは ウクライナ侵攻を続けた?(サンク・コスト効果 )

新著『今さらだけど、ちゃんと知っておきたい「意思決定」』の内容紹介。

今回は、「サンク・コスト効果 」のお話です。

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    この本を執筆中の2022年2月24日に、ロシアがウクライナを侵攻しました。このプーチン大統領の「意思決定」は、世界に衝撃を与えました。
    同年3月4日の新聞は、「ロシアのプーチン大統領ウクライナ侵攻に駆り立てたものは何だったのか。厳しい国際制裁、膨大な軍事費用に見合う政治・経済的な見返りをロシアがウクライナで得られる可能性はほとんどない」と書きました(*1)。

    米国のヘインズ国家情報長官は、同年3月8日の公聴会で「ロシア軍が即座にウクライナの首都キエフを制圧してウクライナ軍を圧倒する計画をつくったが、失敗に終わった」「ロシアがウクライナ軍の抵抗や自国軍の戦闘意欲、後方支援体制などの課題を軽視していた」と証言しました(*2)。

    そもそも侵攻したのが問題ですが、ロシアの利害だけを考えても、作戦が失敗に終わったのなら、いったんはウクライナから撤退し、出直しをはかるのが合理的にも思えます。しかし、プーチンはその後も双方に大きな犠牲を出しながら、侵攻を続けました。
    同年4月14日にはロシア黒海艦隊の旗艦「モスクワ」が撃沈され(*3)、同年5月18日にはフィンランドスウェーデンNATOへの加盟申請をする(*4)など、プーチンにとって、状況はますます悪くなっていったようです。
    負けが込むほど後へ引けなくなり、深みにはまっていくギャンブラーのようです。

 

過去にとらわれる「サンク・コスト効果」
    その背景には、「サンク・コスト効果」(sunk cost effect、埋没費用の効果)があるのかもしれません。「サンク・コスト」(埋没費用)というのは、「過去につかってしまい、今からは取り戻せない費用」です。
    多くの人はそうした過去の費用にとらわれて、行き詰まった状況を打開できなくなります。すでに払った犠牲が大きいほど、損失を取り戻そうと躍起になり、ますます傷口を広げるのです。

 

    カーネマンは、次のように言います。
    「会社」をロシア、「エグゼクティブ」をプーチンだと思って読めば、ウクライナ侵攻のケースに、よく当てはまるのではないでしょうか。


    失敗しつつあるプロジェクトにさらにコミットするのは、会社の視点からすればまったくの誤りだが、そのプロジェクトに個人的に肩入れしているエグゼクティブからすれば、必ずしもそうとは言えない。プロジェクトを打ち切るのは、自分の経歴に永久に汚点を残すことになるが、会社の資金でギャンブルを続け、何とか収支尻を合わせられれば、このエグゼクティブの利益は守られる。最低でも、最後の審判の日を先送りすることはできるだろう。サンクコストが存在する場合、プロジェクト責任者のインセンティブは会社や株主の利害とは一致しない。……こうした利益の不一致をよく承知している取締役会が、以前の決定にこだわって損切りをいやがる CEO を更迭することはめずらしくない。……サンクコストの錯誤のせいで、人々はだめな仕事や不幸な結婚や見通しの暗い研究になかなか見切りをつけられない。(*5)

 

*1 日経産業新聞プーチン氏の「帝国」(眼光紙背)」2022 年 3 月 4 日、p.2
*2 日本経済新聞「ロシア政権、情報目詰まり、米が侵攻分析、独裁化で誤算続く」2022 年 3 月 10 日、朝刊p.13
*3 日本経済新聞「「ウクライナがロシア旗艦撃沈」 米が断定 ミサイル2発で 南部上陸作戦難しく」2022 年4 月 16 日、夕刊 p.3
*4 日本経済新聞フィンランドスウェーデンNATO 加盟を申請」2022 年 5 月 19 日、朝刊 p.1
*5 ダニエル・カーネマン著、村井章子訳『ファスト & スロー(下) あなたの意思はどのように決まるか?』(早川書房、2014 年)、第 32 章「メンタル・アカウンティング」

 

 

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