『和をもって日本となす』(ロバート・ホワイティング著、玉木正之訳、角川書店、1990年)
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「二」章では、「現在まで日本人の野球観に多大な影響を与え続けた」という飛田穂洲の哲学が紹介されます。
彼は、1919年~1925年まで早稲田大学野球部の監督を努め、その後は野球記者として第二次世界大戦の前後に活躍し、「野球の神様」と呼ばれたという人物です。
このときすでに、飛田独自の野球論、あるいは監督論といえるものが、彼の頭のなかで明確に形作られていた。選手は、自分の故郷や国を愛するのと同じように自分のチームを熱愛せねばならぬ。選手は、監督に対して絶対的な忠誠と服従を示さねばならぬ。選手は、絶対に不平を口にしてはならぬ。――といった具合に、彼は野球を<武士道>(Bushido)に類比し、道徳的に正道を歩む者のみが運動選手として卓越し得ると考えた。そして彼は、スポーツのなかに<禅>(Zen)の諸要素を見出だしたのである。
彼は次のような文章を残している。
練習の目的は保健長生体位向上にあらず、魂の精錬にある。強い魂は難行苦行のうちよりのみ生ずる。
流星の如き快打、天魔の如き捕球、塁上快隼脱兎の如き振舞は、ひとえに技術的鍛練のみに負うものにあらず、日常の品行清廉なるをもって生じ、強靭なる魂があってはじめてそれを可能ならしめるのである。
学生野球は単なる娯楽にあらず。すなわち学生野球の本分は試合場に在らず、練習場にのみ在る。さらに学生野球の目的は、練習場で自ら難行苦行の修行に臨み、球禅一致の真理を摑むことにある。その鍛練は苦痛であり、虐待でもあるが、絶えざる血涙と汗水が純粋なる魂を生み、真理への到達を可能ならしめるのである。
飛田は、野球の練習を、禁欲主義の一種ともいえる仏教の罪業消滅の苦行になぞらえ、自分の選手たちに一高野球部よりも厳しい訓練を課した。彼は、選手がグラウンドに這いつくばるまでノックの雨を浴びせた。当人の言葉を借りれば、「半死半生の状態で動けなくなり、口から泡を吹くまで」練習をやめさせなかった。彼のやり方は、やがて<死の練習>(death training)として知れ渡った。「選手は熱愛せねばならぬけれども、運動場裏ではできるだけ虐待せねばならぬ。ある場合は涙をふるいながら痛棒を加える。それがやがて試合に勝つ秘訣であると余は信ずる」と、彼はみずからの信念を書き残している。
飛田のモットーは、完璧な野球、だった。ピッチャーは一球入魂という言葉もあるように、すべての投球に全力を傾注する。(pp.68-69)
この文章を読んだとき、私は日本の「体育会系」企業文化にみられる「スポ根」の原点、源流を見たような気がしました。
「効率」や「生産性」とは真っ向から対立する考え方にも思えます。
このあたりが、合理的なアメリカ人との軋轢を生む要因になったのかもしれませんし、現代の「パワハラ」問題にもつながるのかもしれません。
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