正月休みに『怪獣人間の手懐け方』という本を読みました。
カリスマ編集者・箕輪厚介さんの破天荒な仕事ぶりが描かれ、面白く参考になる本でした。
そのなかで、次のような話がありました。
田端信太郎は『ブランド人になれ!会社の奴隷解放宣言』で金魚鉢理論を紹介している。
金魚を水槽で飼っているとする。その水槽の半分ぐらいのところに透明の板を入れる。次第に金魚は半分の範囲で泳ぐことに慣れていく。
ある日、透明の板を取る。すると半分の狭さで生活していた金魚は、板がなくなっても板の内側から出ていかない。
いまだに仕切りがあると勝手に思い込んでしまっているのだ。
それがいま、僕たちの生きている世の中だ。透明な板があると思い込んでいる。ダメだ無理だと勝手に自主規制している。
(箕輪厚介『怪獣人間の手懐け方』クロスメディア・パブリッシング、2023年、Chapter2、07「水槽の中の金魚になるな」)
これを読んで思い出したのは、マーチ(James G. March)という経営学者が研究した、すでに持っている知識の活用(exploitation)と、新しい知識の探索(exploration)という話です。(*1)
たとえば「ランチに何を食べようか」というとき、「おいしいお店を見つけたら、ひたすらそこへ通い、同じものを食べ続ける」という人がいます。
これは知識の「活用」を重視するタイプでしょう。
「つねに新しいお店を探して、毎回違うものを食べる」という人もいます。
こちらは知識の「探索」を重視するタイプです。
読者のみなさんは、どちらでしょうか?
短期でいえば、平均点が高いのは「活用」タイプの人でしょう。
知っているなかで一番おいしいものを食べるので、失敗がなく、確実に満足できます。
しかし、同じものばかりだと飽きるでしょうし、さらに美味しいものは見つかりません。
「探索」タイプの人は、初めてのお店やメニューにチャレンジするので、まさに試行錯誤で、失敗が多いでしょう。
しかし、どんどん知識が増えて、ときにはすばらしい発見もあるでしょう。
多くの動物は「活用」を基本として、ときどき「探索」する戦略をとるようです。
たとえばT字型の迷路で、いつも右側に餌を置いておくと、ラットはやがて右に餌があることを学習します。
しかしその後も、つねに右へ行くのではなく、5%くらいは左へ行ってみるそうです。(*2)
自然界では、新しいチャレンジは危険と隣り合わせです。
多くの場合、すでにわかっている知識を「活用」するほうが安全なのでしょう。
しかし、環境には変化があり、状況はときどき変わります。
一定の割合で「探索」をすることが、長期の利益につながるのでしょう。
多彩なヒットを生み続ける秋元康さんは、次のように言います。
僕の一番のエネルギーは「好奇心」です。
行列があれば絶対に並ぶし、「何を売ってるんだろう」「どんな店なんだろう」って、絶対に入りたくなる。
カレーライスのおいしいレストランへ行くとします。
カレーを1回食べたら、次は絶対に違うもの、たとえばハヤシライスを頼みます。
メニューを見て、知らないものがあったら、絶対にそれを頼みます。(*3)
秋元さんの創造性の秘密は「探索」にあるのかもしれません。
最近は、変化のスピードがますます速くなったと感じます。
どんどん「探索」をして固定観念を壊さないと、時代から取り残されるのかもしれません。
*1 March, James G., "Exploration and Exploitation in Organizational Learning," Organization Science, 2-1, 1991, pp.71-87;
ブライアン・クリスチャン&トム・グリフィス著、田沢恭子訳『アルゴリズム思考術 問題解決の最強ツール』(早川書房、2017年)、2 章
*2 ロバート・トリヴァース著、中嶋康裕・福井康雄・原田泰志訳『生物の社会進化』(産業図書、1991年)、p.129
*3 NHK 教育テレビ「仕事学のすすめ」「ヒットを生み出す企画術 秋元康(作詞家)第 1 回」2010年5月6日
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