前回は、相手から先に情報を出させる交渉術を紹介しました。
これに対して、先に行動するほうが有利になる「先行者優位」(first-mover advantages)という現象もあります。
たとえば「よい立地」や「優れた人材」のように「希少」(scarce、まれで少ない)な資源があるとき、先行者はそれを「先取り」(preemption、先に取ってしまう)すれば、後発のライバルよりも優位に立てるでしょう。
だから就職戦線で、多くの企業は有望な人材を「青田買い」(ライバルよりも先に内定を出して確保する)しようとするのでしょう。
「婚活」でも、「好ましい結婚相手」が限られていて、自分の魅力は時間とともに下がるとすれば、あまり悠長に考えるのは得策でないかもしれません。
近年は先行者優位をもたらす「ネットワーク効果」(network effect)、または「ネットワークの外部効果」(network externality)という現象が注目されます。
その例によく挙げられるのは、私たちが使っているPCのキーボードです。
みなさんが使っているキーボードは、おそらく左上に「Q」のキーがあり、そこから右へ「QWERTY……」と並んでいるはずです。
この「QWERTY」(「クワーティ」と読みます)のキー配列は、タイプライターの時代にできたもので、実は入力が遅くなるよう、わざわざ打ちにくい配置にしてあるといわれます。
昔のタイプライターは、速く打ちすぎると故障したからです。
その後PCの時代になり、もっと速く打てるキー配列も考案されました。
しかし、いったん普及した「QWERTY」は、今も不動の地位を誇ります。
それは、なぜでしょうか。
どこにでもある「QWERTY」でタイピングを覚えれば、学校でも職場でも、慣れ親しんだキー配置で入力できるので便利でしょう。
自分だけがマイナーな配列を覚えると、どこへ行っても不慣れなキーボードに悪戦苦闘するはずです。
「みんなが使っている」ということが、「QWERTY」の価値を高めているのです。
後発のキーボードは機能で優るにもかかわらず、その牙城を崩せませんでした。
上の例のように、「商品やサービスの利用者が多いほど、その価値や魅力が大きくなる」ことを「ネットワーク効果」といいます。*1
ネットワーク効果のために、人気の商品やサービスはますます人気になり、後発のライバルを引き離していくのです。
*1 これについて興味のある方へ、次の本をおすすめします。
カール・シャピロ、ハル・R. バリアン著、千本倖生監訳、宮本喜一訳『「ネットワーク経済」の法則』(IDGコミュニケーションズ、1999 年)
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