沢木耕太郎さんの『深夜特急』という紀行小説に、インドで値段交渉をする場面があります。
……背を向けたまま首を振ると、男はさらに必死に叫んだ。
「ハウ・マッチ、ハウ・マッチ!」
なるほど、これがインド式の駆け引きなのか。私は興味が湧き、足を止めた。そして、逆に訊ねてみた。
「いくらにしてくれる?」
「いくらならいいんだ」
男は私に先に言わせようとして、なかなか自分から具体的な数字を言い出さない。手の内はできるだけ晒さないというのが、インド商法の鉄則のようだった。
(沢木耕太郎著『深夜特急3 インド・ネパール』(新潮文庫)、2020年、第七章)
交渉のとき、相手から条件を言わせようとするのは、インドに限ったことではないでしょう。
私もよく経験しましたが、家やクルマの価格交渉で、営業担当者はお客に条件を言わせようとします。
それはなぜでしょうか。
たとえば営業担当者が、クルマを150万円以上で売りたいとします。
営業担当者が先に「150万円以上なら売ります」と言ってしまうと、クルマは150万円でしか売れません。お客はさらに値下げを要求するかもしれません。
お客から条件を言ってもらい、たとえば「170万円以下なら買います」ということなら、クルマを170万円で売ることができます。
営業担当者は渋い顔で「うーん、そのお値段では厳しいのですが、ちょっと上司に相談してきます」と言って、いったん奥へ引っ込みます。
しばらくすると「やれやれ」といった表情で戻ってきて、「なんとか許可をもらえました。この値段で買ったことは絶対に口外しないでください」といった演技をするのです。
お客が150万円よりも安い値段を言ったら、「申し訳ありませんが、そのお値段ではとても無理です」と、改めて交渉をすればよいでしょう。
交渉では、多くの情報をもつほうが有利です。
だから、お互いに自分の手の内は明かさず、相手のもつ情報を探ろうとするのでしょう。
友人や同僚から「ちょっと時間ある?」と聞かれて、答えに迷うことはありませんか?
楽しいお誘いなら「はい」ですが、面倒なことを頼まれるかもしれません。
そこで「あ、どうしてですか?」と、相手から先に情報を出してもらおうとするのではないでしょうか。
そういう駆け引きは、日常にあふれているのかもしれません。
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