(経営学者)佐藤 耕紀 のブログ

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食事にありつけるのは、利己心のおかげ?: 「交換」と「分業・専門化」

    著書の9-4では、アダム・スミスの『国富論』を引用して、「交換」と「分業・専門化」の話をしました。

    教科書で『国富論』の名前を知ってはいても、実際に読んだことのある人は、あまりいないのではないでしょうか。

    著書ではあまり多くを紹介できませんでしたが、ここでは少し長めに引用しておきます。

 ***** 

    人間社会の基本として、「交換」(exchange)と「分業」(division of labor)・「専門化」(specialization)というものがあります。アダム・スミスは『国富論[1]で、次のように書いています。

 

    ・・・人は仲間の助力をほとんどつねに必要としており、しかもそれを彼らの慈悲心だけから期待しても無駄である。自分の有利になるように彼らの自愛心に働きかけ、自分が彼らに求めることを自分のためにしてくれることが、彼ら自身の利益になるのだということを、彼らに示すことのほうが、有効だろう。他人になんらかの種類の取引をもちかける者はだれでも、そうしようとする。私のほしいそれをください、そうすればあなたのほしいこれをあげましょう、というのがすべてのそのような申し出の意味であり、われわれが自分たちの必要とする好意の圧倒的大部分をたがいに手にいれるのは、このようにしてなのである。われわれが食事を期待するのは、肉屋や酒屋やパン屋の慈悲心からではなく、彼ら自身の利害関心からである。われわれが呼びかけるのは、彼らの人類愛にたいしてではなく、自愛心にたいしてであり、われわれが彼らに語るのは、われわれ自身の必要についてではなく、彼らの利益についてである・・・

    われわれが自分たちの必要としているような相互の援助の大部分をたがいに受けとるのは、話し合いや交換や購買によってであるように、本来分業を生むのも、この取引するという同じ性向なのである。狩猟あるいは牧畜の種族のなかで、ある特定の人が、たとえば、弓や矢を他のだれよりもためらわず巧妙に作る。彼は弓や矢をしばしば仲間たちの牛や鹿肉と交換し、ついにはこのようなやりかたのほうが、それらのものをつかまえに自分で野に出るよりも、多くの牛や鹿肉を手にいれられることを知るようになる。そこで自分自身の利益にたいする配慮から、弓や矢を作ることが彼の主な仕事になり、彼は一種の武器工となるのである。またある人は、自分たちの小さな小屋や移動家屋の骨組や屋根を造ることに秀でている。彼はいつもこのようにして隣人たちの役にたつようになり、隣人たちはまた同様にして彼に牛や鹿肉を報酬として与え、こうして彼はついにはこの仕事にもっぱらうちこみ、一種の家大工になることが自分の利益だと知るようになる。同様にして第三の人は鍛冶屋なり真鍮工なりになり、第四の人は未開人の衣類の主要部分をなす獣皮のなめし工や仕上工になる。そしてこのようにして、自分自身の労働の生産物のうち自分の消費しきれない部分をすべて、他人の労働の生産物のうち自分の必要とするような部分と、確実に交換することができるのだということが、各人を特定の職業に専念するように、そしてその特定の仕事にたいして彼のもつどんな才能や資質でも育成し完成するように、しむけるのである。(p.38-40)

 

    人間のあいだでは、もっとも似たところのない資質こそたがいに有用なのであって、彼らそれぞれの才能のさまざまな生産物が、取引し、交易し、交換するという一般的性向によって、いわば共同財産になり、だれもが他人の才能の生産物のうち自分の必要とするどの部分でも、そこから買うことができるのである。(p.42)

 

[1] アダム・スミス著、水田洋監訳、杉山忠平訳『国富論』(岩波文庫、2000年) 

 

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