(経営学者)佐藤 耕紀 のブログ

経営学の紹介 & Coffee Break(写真、紀行、音楽など)

経営学

時は金なり?(11)「希少性」と「タイパ」

前回の続きです。 近年、コンテンツ(文章、音楽、映像などの作品)が潤沢になってきた(多くのコンテンツを低価格で入手できる)ことを確認しましょう。 音楽を例にとります。 日本で最初のLPレコードは、1951年に「日本コロムビア」から発売されたそうです…

時は金なり?(10)「価格メカニズム」

6回ほど前に、最近は「タイパ」(タイム・パフォーマンス、時間効率)が重視されており、その代表的な例は「動画の倍速再生」だという話をしました。 なぜ今の時代、「タイパ」が求められるのでしょうか。 すぐに思いつくのは「動画のようなコンテンツが潤沢…

時は金なり?(9)「クリティカル・パス」

前回は「ボトルネック」の話を紹介しました。 同じようなことですが、スケジュール管理やプロジェクト管理で使われる「PERT」(Program Evaluation and Review Technique、作業工程を評価・改善する技術)では、「クリティカル・パス」(critical path、重要…

時は金なり?(8)「ボトルネック」

4回前の「情報技術(ネット、スマホ、アプリ)で便利になったのに、かえって忙しくなったのはなぜ?」という疑問に戻りましょう。 ひとつの理由は、前々回の「軍拡競争」や、前回の「赤の女王」のように、相対的な地位をめぐる競争があるからでしょう。 絶対…

時は金なり?(7)「赤の女王」

前回の「軍拡競争」と同じような競争のパターンを、生物学では「赤の女王」(Red Queen)と呼ぶことがあります。 たとえば、キツネは足が速いほうが獲物を捕らえやすいので、(ある限界までは)速く走れるように進化するでしょう。 しかし、キツネに追われる…

時は金なり?(6)「軍拡競争」

前回の「システム思考」でよく話題になるのが、「軍拡競争」(arms race)という現象です。 たとえば冷戦の時代、アメリカが軍備を拡張します。 それに対抗して、ソ連も軍備を増やします。 それを見て、アメリカはさらに軍備を増やします。 それを見て、ソ連…

時は金なり?(5)「システム思考」

前回の「情報技術(ネット、スマホ、アプリ)で便利になったのに、かえって忙しくなったのはなぜ?」という問いに答える準備として、今回は「システム思考」(systems thinking)を紹介します。 環境ジャーナリストの枝廣淳子さんは、「システム思考」につい…

時は金なり?(4)なぜ「タイパ」を求める?

三省堂の「今年の新語 2022」で大賞に選ばれたのは、「タイパ」という言葉でした。 「費用対効果」を表す「コスパ」(コスト・パフォーマンス)に対して、とくに「時間効率」のことを「タイパ」(タイム・パフォーマンス)と呼ぶようです(時間は費用の一種…

時は金なり?(3)ホリエモンに学ぶ「費用対効果」

前回までの話は、「小さな価値のために、大きな価値を犠牲にしてはいけない」ということでもあります。 「小さな費用を節約するために、大きな効果を捨ててはいけない」「大きな効果のためなら、小さな費用を惜しんではいけない」とも言えます。 「ホリエモ…

時は金なり?(2)ポイントをつける時間は無駄?

前回は「機会費用」という観点から、時間の価値を考えました。 都市部での最低賃金に近い時給1200円で試算すると、1秒には1/3円の価値があります。 時給3600円の人なら、1秒の価値は1円です。 たとえば年間2000時間働いて年収720万円の人は、時給でいえば360…

時は金なり?(1)「機会費用」

私は料理が好きなのですが、その最中に、ふと考え込むことがあります。 たとえばツナ缶を器に空けると、缶の隅にこびりつきが残ります。 そこで、中のツナをどれくらいきれいに取り出すのが合理的か、考えてしまうのです。 時間があれば丁寧にこそぎとったり…

「ブランド・イメージ」の魔法(5)かき氷のシロップ、実はどれも同じ味?

夏の風物詩「かき氷」が好きだった人は多いでしょう。 「イチゴ」「メロン」「レモン」など、好きなシロップを選んだのも懐かしい思い出です。 ところが最近になって、(少なくとも一部のメーカーでは)「シロップの味はどれも同じで、香料と着色料が違うだ…

「ブランド・イメージ」の魔法(4)

私たちは「絵の美しさ」や「料理のおいしさ」や「音楽のすばらしさ」を評価するとき、「目にうつる映像」「舌に感じる味」「耳に聴こえる音」といったリアル・タイムの知覚だけでなく、さまざまな先入観やイメージも含めて総合的に判断します。 たとえば、次…

「ブランド・イメージ」の魔法(3)レモンは速い?

知らず知らずのうちに、私たちはさまざまなイメージに影響されます。 有名な例を紹介しましょう。 後半で解説をするので、まずは質問にお答えください。 <質問1> おかしな質問ですが、「レモンは速いか、遅いか?」と聞かれたら、あなたの直感ではどちらで…

「ブランド・イメージ」の魔法(2)「探索財」「経験財」「信用財」

「人は見かけによらない」「外見より中身」といわれます。 そういう警句があるのは、私たちがものごとを見かけで判断しがちな裏返しかもしれません。 「客観的な実態」と「主観的なイメージ」があるとして、そのどちらが重要なの でしょうか。 「どちらが判…

「ブランド・イメージ」の魔法(1)

「先行者優位」は、「元祖」「本家本元」といったイメージからも生まれるのでしょう。 私が住んでいる横浜の名物のひとつに「家系ラーメン」があります。 その創始者である吉村実さんが1974年に始めた「吉村家」は、「家系総本山」として今も絶大な人気を誇…

「規模の経済性」と「経験効果」(4)「経験効果」

前回まで3回にわたって「規模の経済性」の話をしました。 生産量が増えると費用が下がる背景には、「経験効果」(experience effect)もあります。 「学習効果」(learning effect)とも呼ばれます。 仕事で多くの経験を積むと、だんだんと熟練して、作業ス…

「規模の経済性」と「経験効果」(3)「密度の経済性」

前回は、「時間あたりの売上を増やす」ことで「時間あたりでかかる固定費(人件費や家賃)の比率を下げる」という「速度の経済性」の話をしました。 家賃や輸送費のように、空間の広さや距離に応じて発生する費用もあります。 そういう固定費に対して売上を…

「規模の経済性」と「経験効果」(2)「速度の経済性」

前回は「商品をたくさん売ると、固定費の割合が小さくなる」ことによる「規模の経済性」の話をしました。 そういう「規模の経済性」は、さらにいくつかのタイプに分けられます。 たとえば、人件費や家賃のように「時間あたりいくら」でかかる費用があります…

「規模の経済性」と「経験効果」(1)

「先行者優位」が生まれる背景には、「規模の経済性」(economies of scale)や「経験効果」(experience curve)もあります。 「規模の経済性」は、「生産(販売)の規模が大きいほど、経済的(低コスト)になる」ということです。 そのしくみを理解するカ…

「お客を呼ぶ商品」と「利益を出す商品」の組み合わせ 「マージン・ミックス」(2)

前回の続きです。 昨今の値上げラッシュで姿を消しましたが、大手チェーンのハンバーガーが100円以下で売られていた時代もありました。 目玉商品の「100円バーガー」が売れても、利益はほとんど出ないはずです。 しかし多くのお客は、ポテトやドリンクも買っ…

「お客を呼ぶ商品」と「利益を出す商品」の組み合わせ 「マージン・ミックス」(1)

前回お話しした「キャプティブ価格」では、耐久財(「プリンタ」「カミソリ」「携帯電話」)を安くしてお客をロック・インし、補完財(「インク」「替刃」「通話料」)で利益を出そうとします。 これは「お客を呼ぶ商品」(利益率の低い商品)と「利益を出す…

「補完性」と「キャプティブ価格」

前回は「スイッチング・コスト」と「ロック・イン」の話をしました。 お客をロック・インして長期的な利益を大きくする「キャプティブ価格」(captive pricing)という戦略があります。 「キャプティブ」(captive)は「囚われた、監禁された」という意味で…

先手必勝? 「先行者優位」と「ネットワーク効果」(3)「スイッチング・コスト」と「ロック・イン」

先行者優位を生む要因のなかでも、近年は「スイッチング・コスト」(switching cost、乗り換え費用)による「ロック・イン」(lock-in、閉じ込められる、ほかの商品に乗り換えられなくなる)が注目されます。 前々回お話しした「QWERTY」配列の例で考えまし…

先手必勝? 「先行者優位」と「ネットワーク効果」(2)

前回の復習ですが、「商品やサービスの利用者が多いほど、その価値や魅力が大きくなる」ことを「ネットワーク効果」といいます。 名前のとおり、この効果はもともとコミュニケーション・ネットワークの世界で有名になりました。 たとえば、世界で自分だけが…

先手必勝? 「先行者優位」と「ネットワーク効果」(1)

前回は、相手から先に情報を出させる交渉術を紹介しました。 これに対して、先に行動するほうが有利になる「先行者優位」(first-mover advantages)という現象もあります。 たとえば「よい立地」や「優れた人材」のように「希少」(scarce、まれで少ない)…

なぜ、相手から言わせる? 「交渉」

沢木耕太郎さんの『深夜特急』という紀行小説に、インドで値段交渉をする場面があります。 ……背を向けたまま首を振ると、男はさらに必死に叫んだ。 「ハウ・マッチ、ハウ・マッチ!」 なるほど、これがインド式の駆け引きなのか。私は興味が湧き、足を止めた…

済んだことは忘れろ? 「ツァイガルニク効果」(2)

前回、「終わったことについて興味が薄れる」という話から「ツァイガルニク効果」(Zeigarnik effect)を紹介しました。 人はなぜ、ものごとを終わらせようとし、終わったことを忘れてしまうのでしょうか。 行動科学者のジーノ(Francesca Gino)らは、次の…

済んだことは忘れろ? 「ツァイガルニク効果」(1)

正月休みに、沢木耕太郎さんの新刊『天路の旅人』を読みました。 期待に違わず、面白い本でした。 その第一章に、次のようなことが書かれていました。 ……私は二十六歳のときの長い旅を『深夜特急』というタイトルの紀行文にまとめていた。以後、さまざまな機…

ものは言いよう? 「フレーミング効果」

「ものは言いよう」といいますが、実質的には同じことでも、言い方によって印象が大きく変わることがあります。 行動経済学者のカーネマン(Daniel Kahneman、2002年にノーベル経済学賞)は、「問題の提示のしかたが、考えや選好に不合理な影響をおよぼす」…